デパート

「デパートって、なんで『デパート』っていうか知ってる?」

「知らない」


「『デパートメントストア』の略でね……」

「いや、興味ないから大丈夫」


 早めに話に割り込んで止めてあげないと、いつまでも雑学を話し続けるんだよね。

 エスカレータを上がっている最中、和也がこちらのことを振り返りながら話しかけてくる。


「じゃあさ、百貨店って……」

「結構です」


 出鼻をくじかれてしょぼくれる和也。話したり内容で依然として後ろ向きのままエスカレーターを昇る。


「それよりも、今日はなんでデパートに来たの? 何が欲しかったの?」

「デートをしようと思ったんだけれども、どこに行こうか迷って……。ウィンドウショッピングとかっていいかなと。外寒いし」


「外に出てもデパートの中を歩くって、アウトドアなのかインドアなのかわからないなぁ。映画見るとか、カラオケ行くとかいろいろあるでしょ。インドアで良いじゃん」

「僕は、二人で一緒に話ができれば嬉しいなって思って……」


 確かに和也の言う通りかもしれない。

 映画やカラオケだと、話す時間というのは限られるのかも?


「……そんなに、私と話したいってこと?」

「もちろん!」


「……ありがとう」


 たまに、こういう所があるから、和也ってずるい。私と一緒に話したいって、私のこと好きって言ってるようなものじゃん……。



「……どうせ、雑学を披露したいだけじゃないの?」

「こういう服着てどこへ行きたいとか……。二人で同じもの買って付けたら、毎日気分が上がるよねとか……。そういう話をしたり……」


 あぁ、ダメだ……。

 今日はなんだか和也が強い。いつもだったら下らないこと言ったら私が論破してるのに。


「僕と一緒にいて楽しくないの……?」

「うぅぅーーー!! 女々しいのよ! ウィンドウショッピングじゃなくて、実際に何か買ってよ!」


「それはそうか……」

「私の似合う物でも買ってよ! デパートだからなんでも揃ってるでしょ? どうなの!」


 無理やり和也を責めてみると、和也は困ってしまったようだった。「えっと、えっと……」と言ってどうしようか考えている。

 一応、これで形勢逆転だね。ふう。


 黙ってしまった和也に、私から声をかける。


「例えばさ、クリスマス近いから、二人でクリスマスプレゼント選ぶとか、あるじゃん?」

「なるほど!」


 和也は私の提案に乗ったようだった。スッと私の手を握ると、目的の最上階を前にしてエスカレーターを降りた。


「ちょっとちょっと、いきなりなによ?!」

「この階、クリスマスフェアをしているんだ。一緒に見よう!」


 そう言って和也は楽しそうに私の手を引いてくれた。


 ……べ、別にキュンとなんてしていないけれども。

 ……今日は私の負けってことにしておいて良いかな。


「デパートって楽しいかもね。和也と一緒ならねっ!」

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