マスカラ

 友達の麻友は、卓上ミラーの前で自身のまつげをいじったり化粧直しをしている。ギャルは昼休みになると、お色直しが入るらしい。そんな生態をしているのだ。ギャルでは無いたみは、それを眺める時間。


「麻友って毎日化粧してるよね。大変そうだよね」

「ん? 大変とかそうじゃないよ。そんな次元の話じゃないし。エチケットだよ」


「ほぇー……。それは大変そうだね。まつ毛いじるの?」

「そうそう、まつ毛長く見せた方が可愛いじゃん?」


 上まつ毛を上に延ばすように、すいすいと慣れた手つきでマスカラを動かしていく。いじる度にまつ毛が伸びていっているようだった。


「まつ毛が長いって良いよね。羨ましいなぁー。目がパッチして見えるよね」

「私だって長くないんだからね? まつ毛が短いからこそ、マスカラつけてるんだよ?」


「えっ、そうなの……?」


 のんびりしたお昼休みに、目から鱗が落ちるとは……。麻友は、朝からずっと化粧している状態だから気付かなかったけど、まつ毛が短いのか。


「郁美は化粧しなさそうだもんね。いつもすっぴんじゃない? 化粧したらいいのに。可愛いと思うよ?」

「いやー……。女っ気のない私には、無縁な代物ですよ」


「一回やってみる? 教えてあげるよ!」


 そういって、麻友は笑いながら鏡を向けてくる。私の驚いた顔が鏡に映し出された。相変わらず化粧気の無い顔が驚いている。

 麻友は席を立ちあがって、私の後ろへと回ってきた。



「まつ毛が長くなるなんてことあるの? 私は生まれてから、ずっと一重なんだよ?」

「自然と二重に変わるなんてことは無いから。アイプチでもしたら変わるけどさ」


 麻友は私の後ろから手を伸ばして、マスカラを私の目元へと持ってきて、私の手に持たせた。


「郁美が持ってやるんだからね。私は郁美の手を動かしてみるから覚えててね」

「できるのかな、私に……?」


「大丈夫、大丈夫。慣れだよ、慣れ!」


 麻友に手を動かされて、右目のまつげをなぞる。くるくると回しながら、まつ毛を巻き込むようにして上の方向へと手を進ませる。

 ただ軽く撫でただけだと思ったが少し変化しているように見えた。、


「え、すごいよ!? なんか、まつ毛が延びた!!」

「ふふふ、マスカラって面白いよね。右目と左目比べて見てよ」


 鏡の中の驚いた顔は、右目がパッチリ。左目は一重の状態。比べると一目瞭然。右目だけがパッチリと可愛く開いていた。


「この調子で、左目もやってみよう」

「う、うん!」


 麻友に手を握られつつ、眉毛をなぞる。ふわっとした感触と共に、左目のまつ毛にも魔法がかかったような気がした。


「最初はこんなものかな? どうどう、変わるでしょ?」

「すごいよ、マスカラって! 私の目が大きくなった!!」


 私の反応に対して、麻友はくすくすと笑っていた。


「郁美も、今度からマスカラしてもいいかもだよ? 可愛いよ!」

「ほんと?! 私、マスカラ好きになったかも!」

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