ボランティア

 私の中学校には、近隣に住む子供たちと遊ぶというボランティア活動がある。近隣の幼稚園まで出向いて、そこの園児たちと遊ぶのだ。

 身近な人たちとのコミュニケーションを取ろうという道徳の授業の一環。座学として教科書を読むよりも、実際に体験した方が良いというのがカリキュラムらしい。

 地域貢献も兼ねて実施するということだ。こういうのを、『一石二鳥』というかもしれないが、『二兎追うものは、一兎も得ず』と言われるように、どちらも中途半端に終わるんじゃないのかな。


 多くの人にとっては良い教育かもしれないけれども、私にとっては意味をなさないかもしれない。


 幼稚園の教室の端っこで、ぼーっとクラスメートが楽しく遊んでいる様を眺める。

 女子は、子供たちとお絵描きをして楽しく遊んでいる。男子は、追いかけっこをしたり、抱っこをしたりして運動をするような遊びをしている。


 子供相手といえども、コミュニケーション能力が試される場。それが足りていない私には、ハードルが高すぎる。この授業は私には無理かもしれないな……。


 立っているのも少し疲れたので、壁にでも寄りかかろうと思ったら先約がいた。普段から誰とも会話しようとしていない男子だ。確か名前は、袴田君。私よりも態度が悪く、床に座って壁に寄りかかっていた。

 私が壁に寄りかかると、袴田君は声をかけて来た。


「この授業ってさ、何か意味あるの?」


 私の方を向くわけでも無く、ただ前を向いて独り言のように喋っている。その雰囲気が何だか心地よくて、私も独り言のように返す。


「現代社会では、コミュニケーションっていうが大事らしいよ。それを学ぶんだって」

「こんなので学べるんだ。コミュニケーションって、そんなのだっけ?」


「コミュニケーションって何だろうね。私は、全然できないから、わからないんだ」

「は? 今してるじゃん?」


 袴田君の言葉に驚いて、彼の方を見る。先ほどと同じく、ぼーっと座って子供たちを眺めているようだった。

 変わらずに、独り言をつぶやくように言ってくる。


「コミュニケーションって、意思疎通だろ?」

「そうだね……?」


「俺は、こんな授業はやりたくないっていう意思表示をしているわけ。それをわからない教師の方がコミュニケーション能力が無いよな」

「うーん……。一理あるのかも?」


 私も袴田君の隣に座る。意思をはっきりと表示できている袴田君が何だかカッコよく見えた。


「袴田君を見てて分かったかも。私は、自分の気持ちを表すのが苦手なのかもしれないや」

「意思表示って難しいかもな。言わないと伝わらない奴らばかりだから。けど、それでいいんじゃね? 伝わるやつに伝われば、満足じゃね?」


 袴田君の価値観が何だか私に突き刺さる気がした。初めて話したけど、私の気持ちを代弁してくれているみたい。袴田君の考えって、何だか好きかもしれない。


「確かにね。伝わる人に伝われば良いかもだね。今日は、ボランティア活動を通じて新しいことを学べた気がするよ。ボランティアが好きになったかもしれないな。ありがとう!」

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