えくぼ
「今日も練習お疲れ様」
部活動の終わりに、後輩たちに声をかける。
運動系の部活って上下関係が激しい所もあるけれども、バスケ部はそこまで厳しくない。どちらかと言うと緩いし、なんなら下の名前で呼び合う仲だったりするくらいだ。
「お疲れ様です!
「練習後のミーティングは体育館外でやるから、暖かい恰好しておきなよー」
「「はい!」」
私が副キャプテンをやっているというのはあるけれど、みんな聞き分けの良い後輩だ。こういう後輩に慕われるっていうは、高校になってからの体験したことだ。立場的な物もあるけれども、やはり嬉しいことに変わりはない。自然と笑みがこぼれてしまう。
部活中は笑わないように気を付けていたのだけれども、笑った顔が後輩たちの目にも入ってしまったらしい。遠くの方で私の話をしているのが聞こえてくる。
「あ、恵美先輩が笑ったよ!」
「恵美先輩って中々笑わないよね。クールなところがカッコいいよね」
私は、少し顔を逸らせて表情を隠す。カッコいいって言われたり褒められるっていうのは悪い気はしないんだけれども、どうしても顔がにやけてしまう。
クールに振る舞いたいっていうわけじゃないんだけれども、笑ってしまった顔を見られるのがとても恥ずかしいから。
そうしていると、同じ学年の美和がやってきた。
「恵美、どうしたのー? 顔赤いよ?」
「……気にしないで。私、ちょっとウォームダウンの途中だったからかも」
美和からも顔を隠す。
「ふふ、ちょっと見てたよ。後輩から褒められてニヤけてたじゃん」
「……違うよ」
「もっと顔が赤くなってきてるよ?」
「違うったら違うんだよ!」
ちょっと声を荒げてしまったことで、後輩たちもこちらの方に注目しているようだった。ただ、美和がからかうから顔はニヤけずに済んだ。このまま冷静さを取り戻していこう。
うつむいて顔を隠していた状態から、徐々に元の体制へと戻す。もう、いつも通りの私の顔に戻ったはず。その顔を美和は覗き込んで来た。
「そういうところ、可愛いよね」
「……!」
唐突な褒め言葉に対して、私の口角は見事に上げられてしまった。みんなから注目されている状態で、満面の笑みだ。
「ふふー、そんない嬉しがっちゃって! 恵美はえくぼ可愛いんだからさ、もっと笑ってよー!」
「うるさい、うるさい! 笑うと『えくぼ』が出るって、なんだか恥ずかしいんだからね!」
「良いじゃんえくぼって。可愛いと思うよ? 皆も見てみてよー!」
美和の呼びかけに、後輩たちはおそるおそる確認し気に来た。
「本当だ! 可愛いです!」
「恵美先輩の笑顔もっと見ていたいです」
「写真に収めたいー!」
褒め言葉が飛び交うので、いてもたってもいられなくて、その場にしゃがみこんでしまった。
美和もしゃがみこんで、目線を合わせてくれた。
「自信もって大丈夫だよ! 私は恵美のえくぼ大好きだから!」
真面目な顔で言う三輪の顔からは、優しさを感じた。
「……えくぼ、褒めてくれてありがとう。私も本当は好きなんだよ、ただ恥ずかしいんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます