チキンナゲット

「チキンナゲットをだぜ!」


 少し声を張って言ってみたところ、カラオケルームの壁に少しだけ声が反響した。


 しかし、周りの反応は無かった。隣の部屋のカラオケの音だけが静かに聞こえていた。

 普通だったら、こんなに隣の部屋の音が聞こえることって無いんだけども。


 そもそも、なんでカラオケに集まったかっていうと、誕生日会をするためだ。誕生日が同じ二人がいたから、「じゃあ一緒に誕生会をしよう」と言って、カラオケルームに集まったんだ。

 カラオケで頼む食べ物と言えば、ピザやポテト、チキンナゲットといったジャンキーフードだ。これが高校生には一番美味しいって思ってる。


 それらが部屋に届いて、乾杯をした直後のことだ。私が景気づけにナゲットを食べ始めてみたのだけれども、周りの反応は無くて冷ややかな空気だけが流れていたのだ。




「……えーっと、冬って寒いよねー!」


 取り繕うために言葉を発してみる。

 周りの雰囲気を感じ取って私が話題を変えようとしたが、水樹が見逃さなかった。


「杉野っち、いまおやじギャグ言ったよね?」

「え、いや、なんのことかな? あはは……」


「もう、そんなので盛り上がるわけないじゃーん、あははは!」


「「ははははー」」


「そ、そうだよねー、はははー……」


 私も一緒になって笑った。水樹に救われたかもしれない。



「じゃあ、みんなで食べよー!」


 とりあえず、机の上に用意された食べ物をみんなで分けあった。


 なんで私がおやじギャグなんかに突っ走ってしまったかって、いつものメンバーだけじゃなくて男子が混じっているからだ。

 誕生会の主役である美樹の希望で、「ミッキーマウスとミニーマウスと同じ誕生日でシンパシー感じちゃったから、一緒に誕生会やりたい」って強く言うものだから。


 シンパシー感じたなら、二人きりでやっておけよって思うんだけどね。

 二人だけだと緊張しちゃって、できないって言い出す始末だし。今でも二人はよそよそしい感じだし。

 なんで、それに付き合わされているんだろうな……。


 しょうがないから私と、水樹で盛り上げるしかないって感じなんだよね。


「はぁ……。くっつくなら、早くくっつけっていうんだよ、まったくさ……」

「しーっ! 杉野っち声が漏れてるよ!」


「あ、ごめんごめん」


 とりあえず、こんな状況だと食べるくらいしか楽しみが無いから、食べようかな。

 ピザもポテトも良いけど、なんだかんだ、チキンナゲットが食べたい気分かもな。

 肉が食べたい。


 私はどっちかっていうと肉食系女子だからね。



 ……早く楽しみたいから、二人がくっつくように盛り上げてやるか。


「チキンナゲットって美味しいよね。私好きなんだ。みんしてね!」

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