多肉植物

 学校の窓際に誰かが置いた多肉植物がある。手のひらに収まるくらいの鉢に入って、一株だけ植えられているのだ。私は窓際の席だから、いつも見える位置にある。


 最初見つけた時は「なんだろうなって思ったけれども、見慣れて来ると意外と可愛いと思えてきたのだ。プリっとした果肉が花弁のように開いているような形をしており、それが何層にもなっている形をしている。ちょうど薔薇の花のような見た目だ。


 花を見ると心が癒されると聞いたことがある。多肉植物は花では無いのだけれども、それでも眺めていると心癒される気がするのだ。

 授業で先生に指名されて答えを間違った時、この子を見つめて心を癒してくれるのはこの子なのだ。


 今日も回答を間違えてしまって、しょぼんとしながら座って、多肉植物を眺める。すると、いつもと同じ姿があるとおもったのだが、多肉植物は元気が無さそうな姿であった。


 私の落ち込みは逆に吹き飛んでしまった。どうにかして、この多肉植物を元気づけたいと思った。

 授業が終わるとすぐにスマホで検索を始める。


 こいつの名前も分からないし、そもそも誰が置いたのかもわからない。けど、いつも見ていたこの子、元気がない姿であれば助けてあげたいと思うのが必然だ。


 スマホで調べてみたところ、おそらく寒さによって元気がなくなってしまっているかもしれなかった。あと、もしかすると季節が変わってきて、日当たりが悪くなってしまったのかもしれない。

 寒さはすぐにどうにかできないので、日当たりだけでも良い場所に移動しようとすると後ろから声を掛けられた。


「そいつ世話してくれてたんだ、谷田って優しいんだな」


 振り向くとそこにいたのは、鬼川君だった。

 透き通るくらい脱色された金髪。そんな髪の毛にする人はうちの学校にいなくて、誰からも声を掛けづらいイメージを持った男子。

 ピアスまで開けているから、乱暴で怖いイメージがあったけども、この多肉植物の存在に気付いてたのか。というよりも……。


「あ、あの、もしかして、この多肉植物って鬼川君のなの?」


 私から聞いてみると、鬼川君は面倒くさそうに頭をポリポリと掻いた。


「かして、この多肉植物って鬼川君のなの?」


 私から聞いてみると、鬼川君は面倒くさそうに頭をポリポリと掻いた。


「あ? 別に俺のっていうか、ここに置いといたらみんな和むかなって思って」


 ぶっきらぼうなしゃべり方はいつも通りだけれども、多肉植物を見つめる鬼川君の目からは優しさを感じた。


「そうなんだね。鬼川君って、優しい所があるんだね」


 なんだか優しさが溢れている気がして、気軽に話しかけてしまっている。いつもだったら考えられないくらいフレンドリーに。


「は? 誰に言ってんの? 俺からやさしさ取ったらなんも残らないっつーの」


 多肉植物の方だけを向いて、少し頬を赤らめて笑っていた。多分、恥ずかしがっているんだと思う。鬼川君って意外とわかりやすいのかもしれない。

 けど、冗談で言っているわけじゃなくて、本当に優しいんだと思う。


 今調べた、多肉植物が元気になる方法であった通り、日に当たるところへと多肉植物を移動させていた。



 私は、鬼川君の優しさで救われていた人がいるっていうのを伝えたくなった。


「私、この多肉植物好きなんだ。とっても癒されるんだ。置いてくれてありがとう」

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