丸い石

 小学校からの帰り道。一人でとぼとぼ歩いて帰る。いつもは友達と帰るんだけれども、今日は喧嘩してしまったから一人で帰る。


 秋になったかと思ったら、すぐ冬になっちゃったらしくて、お母さんにもらったマフラーをつけて来たんだ。心配性なお母さんは、手袋までしていくように言ってくれたの。だから私は言うことを守って、冬らしい格好で投稿したんだ。


 そうしたら、みんなからからかわれたんだ。「まだ冬じゃねーじゃん」とか、「おかしいよ水野さん?」とか。


 せっかくつけて来たお気に入りのマフラーと手袋だったのに、なんだか悲しい気分になって強く言い返しちゃったんだ。けど、やっぱりみんな、ひどいよね。



 誰かにこの事を話したくても誰もいない。しょうがないので、地面に向かって話しかける。


「マフラーと手袋付けたっていいじゃんね。寒いんだもん……」


 そうすると、私の足に引っ掛かった石があった。ちょうど蹴る形になってしまい、前の方に飛んで行った。

 蹴ってしまったことに驚いたが、少し転がって止まっている姿は、いつも遺書に帰っている友達を訪仏とさせた。


「もしかして、私と一緒に帰ってくれるってことかな?」


 私は石のところまで歩くと、また少し蹴り飛ばした。先ほどと同じく少し転がって、止まる。そんな石の姿が見ると、少し楽しい気分になってきた。

 また、蹴ると同じように進む。私と歩調を合わせて、一緒に帰っているみたい。一人で帰るのも、これはこれで楽しいかもしれない。


 このまま家まで蹴って帰ろうと思っていたら、大きな関門が立ちはだかった。信号だ。



 信号は赤色なので、私と石はその場で立ち止まる。

 大きい道路では無いけれども、一蹴りだけでは向かいの歩道には届かないだろう。大きく蹴ったとしても、どこかへ行ってしまうかもしれないし。もしも車にぶつけちゃったら、すごい怒られるだろうし。

 反対側の歩行者信号が点滅し始めた。渡っていた人は小走りになった。信号が変わっちゃう。どうしよう……。


 地面に目をやると、石が悲しそうに見えた。私と別れるのが悲しそう。短い間だったけど、私の愚痴を聞いてくれた石くん。ここでお別れしちゃうのは悲しい……。



 信号が変わった。

 向こう側の歩道から人が歩いてくる。私の後ろにいた人も私を抜かして、横断歩道を渡っていく。


 立ち止まったままだった私は強く決心して、その場にしゃがんだ。そして、石を手に持って、ポケットへと入れた。そして、横断歩道を走って渡った。


 ポケットの中で嬉しそうに揺れる石くん。

 私は、ポケットへ向かって話しかける。


「私と下校をともにした石くん。これは私の宝物にしよう!」


 ポケットに手を入れて、石を握りしめる。


「名前でも付けてあげると良いかもしれないね。丸い石だから、石丸くんが良いかな? ふふふ」



 私の大好きな丸い石くんが、私の宝物に加わった。

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