音声合成
小春日和。
晩秋から初冬の間にある穏やかな晴れの日のこと。最近は、11月なのに夏のような気温まで上がる日があったり、かと言えば冬のような寒い日もあったりした。
そんな夏と冬に挟まれたような季節だったから見失いがちだけれども、丁度過ごしやすい陽気の小春日和っていう日は、気持ちが良い。
授業中、ついうとうとしてしまう。
こういう日って、時間の感覚が分からなくなる。早く進んでいるようで、ゆっくり進んでいるようで。
それがとっても気持ちいいんだけれども。夢の世界から現実世界に戻ってくれなくなっちゃうんだよねー。
そう思っていると、先生が授業を終わりを告げた。
「じゃあ、今日はここまでにしょうか。しっかり復習しておくようにー」
そう言って、先生は教室を出て行った。
眠気が冷めなくて、このまましばらく寝てようと思って、うとうとしていると、また先生の声が聞こえて来た。
「相坂、まだ寝てるのか? ちゃんと勉強しろー?んと勉強しろ値?
教車からの」
教卓からの声ではなくて、私のすぐ前から聞こえて来た声に驚いて、私はパチッと目を覚ました。そして、立ち上がって180度くらい腰を折って深々とお辞儀をした。
「す、すいません。暖かい日差しが気持ち良くて寝ちゃってました!」
私の潔い発言に、「はっはっは」と先生は笑っているようだった。
私は許されたのかと思い、頭を上げると目の前にいたのは、沙織だった。ニヤニヤ笑って、こちらを眺めていた。
「どうだったかな? 先生っぽかった?」
また、先生の声が聞こえた。沙織が話すのと合わせて聞こえてくるようだった。
沙織は手にスマホを持って、誰かに電話をするように話しているようだったが、そこから聞こえてきたのは先生の声だ。
「もしかして、先生の声って、沙織が出しているの?」
「そうそう、これスマホアプリのボイスチェンジャーなんだ。先生の声っぽいでしょ? ちょうどサンプルにあったからびっくりしたんだー」
「びっくりしたのは私の方だよ! 本当に先生かと思っちゃったじゃーん!」
「あははは。ちょっと驚かそうと思っただけなんだよ。ごめんごめん」
沙織は、スマホを両手で挟んで謝ってくる。
「せっかく、うとうとしているの気持ち良かったのにー」
「そうしたらさ、こういう声で癒されてよ!」
沙織は、またスマホを顔の横に持っていき、電話をしているような体制になった。
「相坂、ごめんにゃ。とっても悪いと思ってるにや。お詫びにこの声で癒してあげるにゃ!」
聞こえてきたのは、萌え声で語尾に『にゃ』とついている声だった。
私は興味津々で尋ねた。
「なにそれ、なにそれ?」
「これはにゃ。音声合成アプリなのにゃ。高度なAIが私の声をチェンジしてくれてにゃ、語尾とかも変えてくれるのにゃ!」
いつもの陽気な沙織の声と違って、可愛らしい子供のような声がした。
確かに癒されるような気持ちになれる気がした。
「どうかにゃ? 癒されたかにゃ? 私、音声合成が好きになったのにゃ!」
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