歯並び

 秋の気配がしてきたと思ったら、暦上は立冬らしいんだ。

 今年の気候って、どこかおかしいよね。夏の次に冬が来る感じ。秋ってどこ行ったんだろう?


 不思議に思う反面、冬支度は急いで進めなければいけない。そのために、冬用のセーターとか暖かい上着を買わねばいけないと思い駅まで買い物にやってきた。



 駅ビルに入っている服のお店へと着くと、お店の中は少し混んでいた。おそらく多くのお客さんが冬支度を始めるために土日を使って冬服を買おうということだろう。

 人込みの中で、セーターの売り場を探して歩いていると、美人なオーラを放っているお姉さんが見えた。


 女の私でも、目が釘付けになってしまうほどの美人。ただ、どこかで見たことあるような顔という気がした。こんな美人な知り合いなんていないと思うのだけれども。

 お姉さんは友達と一緒に買い物をしているようで、時折綺麗な綺麗な白い歯を見せて笑っていた。

 じっと見つめていると、友達から指摘されたのか、顎にかかっていたマスクをつけた。

 ご時世柄、マスクは今でも必要だったりするものだ。



 美人なお姉さんは、律儀な性格をしているんだなと思っていると、おぼろげに記憶が蘇ってきた。


 誰だったか分かったと思った瞬間、反射的に声をかけてしまった。


「あの、もしかして駅前歯科の歯医者さんですか?」


 マスクをして振り向いた顔が、まさにそうだった。

 私が毎月通っている歯科のお姉さんだ。いつも私を担当してみてくれている人。


「ん? はい、そうですけれども。けど、正確に言うとすれば、『歯科衛生士』っていう仕事をしていますけれども……? どちら様でしたでしょうか……?」


 私の記憶がおぼろげだった部分が確信に変わった。

 それがついつい嬉しくなってしまい、ハキハキと話す。


「いつもお世話になっています。駅前の歯科に通っている浅井という者です! 毎月月末に見てもらっている浅井です!」


 元気な挨拶に対して、お姉さんは眉をしかめて首を捻ってしまった。私の勘違いだったかというくらい、熟考するように私の顔を眺めて来た。

 失礼の無いようにと言うことか、一旦マスクを取って、じろじろと眺めてくる。



「あぁー! あの浅井さん。こんなところで会うなんて奇遇ですね!」


 お姉さんも思い出してくれたようで、パッと顔が明るくなった。

 そして、私が笑っている口元を見てくる、


「歯並びも、良さそうだね! マウスピースもばっちり機能してそうだね!」


 そう言いながら、お姉さんも笑ってくれた。

 横に口が広がると、綺麗な歯並びが見える。私も治療が進んだら、こういう風な歯並びになれたらいいな。


 良い歯並びって綺麗な女性になるための条件かもしれない。お姉さんの笑顔が眩しかった。


 私も、お姉さんみたいな歯並びにしたいと思った。

 初めて見たけれども、お姉さんの綺麗な歯並び、とても好きだな。

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