ココア
部屋の中がすごく寒い。
やっと、季節が秋に変わったということだろう。夏だったら、「暑い」と言えばより暑く感じてしまってたのに。季節が進むと、暑いと言ったところで、寒いのだ。
夏期講習から、塾に通い続けている。毎日部活が終わった後に、すぐに塾に来ている。
高校受験が近いからと、母が無理やり入れた塾。勉強が大事だと思っていても、一人ではできないから塾っていう場所はとても役に立っていると思う。ここにいるだけで、いやいや言いながらも勉強ができているんだからね。
塾について、すぐに授業の準備を始める。外の寒さから部屋の中に入っても、部屋の中も寒かった。
走ってきたからまだ身体は暖かいけれども、すぐに冷えちゃいそう。
そう思っていると、塾講師の田中先生が教室に入ってきた。
「それじゃあ、授業始めるぞー!」
田中先生がそう告げると、教室中をチラチラ見ながら、出席確認ついでに雑談を始める。
「11月になって、そろそろうちもコタツを出そうとしたんだけどな、コタツのコードがなかなか見つからないんだわ。なので、家では寒くて困ってます」
「あはは、先生。コタツの意味ないじゃん!」
「私の家のコード貸してあげようか?」
「人の家のコタツのコードって使えるのか?」
「優しいな、松田は。今度貸してくれな。それじゃあ、授業始めるぞー」
塾の先生は、人気が大事な商売なのか。楽しい雑談を交えながら進めたりしてくれる。
授業は楽しくて笑うこともあるけれども、汗をかいてしまった身体がどんどん冷えていく。
授業に集中できないくらい寒い。制服のまま来ると、特に膝が冷える。冬はひざ掛け毛布が必要かもしれない。
着る毛布とか、そう言うのが欲しいかもしれないな……。
◇
そんなことばかり考えていると、授業が終わってしまった。終わるころには、私の身体はガタガタと震えてしまっていた。そこへ、亜紀がやってきた。
「寒そうだね、大丈夫?」
心配してくれている声が優しくて、気持ちだけは暖かくなったのだが、身体の震えは止まらなかった。
「この季節って、外は寒いけれども暖房が入らないんだよね。冬だったら私も毛布持ってたんだけれども、今は持ってないからなぁ」
「大丈夫だよ……。気を遣わせちゃってごめんね?」
「ううん。私こそ何もできなくて……。あっ、そうだ!」
亜紀は何かを思いついたように表情を変えると、自分の席へと戻っていった。そしてカバンから何かを取り出すと、私の席へと戻ってきた。
「これあげるよ。温かいココアだよ。さっきコンビニで買ってきたペットボトル。まだ温かいはずだよ!」
「えっ? そんな、悪いよ。私のことは気にしないで大丈夫だから」
断ろうとすると、亜紀は私の両手の中へ、ペットボトルを押し込んで来た。
手の中に温かさが伝わってきた。
「飲んで、身体の中から温まってね! 今度、返してくれればいいから!」
亜紀はそう言って、無邪気に笑うと自分の席へと戻っていった。
私の手の中に残ったココア。持っているだけで温かい。
それ以上に、亜紀の優しさが心にしみた。
亜紀のくれたココア。大事に飲もう。
温かいココア、大好きだな。
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