菊園の最中

 11月になり、朝方は少し肌寒く感じるようになった。

 10月後半には気温が25度を超える夏日もあったが、ようやっと季節が追い付いてきたようだ。

 やっと秋という季節を堪能できる。


 季節ごとの花が好きで、その都度花畑へと足を運んだりするのが私の中でのルーティンとなっている。

 今度の休日には、花でも見に行きたいなと思っていると、友達の菊田さんから声を掛けられた。


「今度の土日って予定空いてたりする? 『菊園』に行こうと思うんだけれども、一緒に言ってくれないかな?」


 菊田さんからの提案は、渡りに船だと思い二つ返事で了承した。


「いいよ! 私も行きたいと思ってたんだ!」



 ◇



 約束した土曜日。

 菊の花を見に行くとなれば、服のコーディネートに黄色を取り入れようかなと考えて、黄色いカーディガンを羽織り、茶色いロングスカートという服装にした。

 地面から菊の花が咲くようなイメージだ。


 服装も決めたことで、気分も乗ってきた。

 菊田さんも、秋らしい可愛らしい服装でやってきた。


 菊というと黄色いイメージがあるが、それ以外にも白色だったりピンク色があったりする。ただどの色であっても、モコモコと丸く咲く菊という花は可愛いと思う。

 そんな菊が咲き乱れるところを考えると、どんどん気持ちが高まってくる。楽しみだな。



 しかし、着いたところは、大きな屋敷のような場所であった。


 私がきょとんとしていると、菊田さんが目をキラキラ輝かせて話してきた。


「ここのお菓子屋さん、一回来てみたかったんだー!」

「菊園って聞いたから、菊の花が集められた庭園かと思っちゃってたけど……。お菓子屋さん……?」


「ありゃ? 私、説明してなかったっけ? ここの最中がすっごい美味しいんだよ!」


 そう言われても、菊の花を楽しみしていた気持ちを持っていく所が無くて呆然としてしまった。

 菊田さんは申し訳なさそうにしているが、勘違いしてしまった私が悪い。


「私が早とちりしちゃったんだもんね。ごめんね。気持ち切り替えてお菓子見るね!」


 折角来たので楽しもうと思い、お店の中に入ると菊の花が出迎えてくれた。

 ショーケースの中には、菊の花に見立てた『菊の花の最中』が咲き乱れているようだった。


「……綺麗」


 思わず声が漏れてしまった。


「すごいよね。いろんな最中があるんだよ。綺麗に見えるよね! 食べてもすっごい美味しいんだよ!」


 菊田さんの顔にも、花が咲いたようだった。

 あまりにも楽しそうに言うものだから、私もお腹も反応するように「グー」と鳴ってしまった。


 恥ずかしさを紛らわそうとしたが、菊田さんのお腹も鳴っていた。


「これも立派な菊だからね。一緒に食べよう! 私の好きな菊園の最中!」

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