文化の日

 今日は文化の日。

 文化を知って知識を深めるという日らしくて、博物館や美術館の入場料が無料になるのだ。美術品を見たところで何か学べるかというと、疑問だけれども。

 そもそも無料であれば行ってみようという気持ちが湧いてくるかというと、答えはノーだ。


 そもそも私は行く気が無かった。それにも関わらず、私は博物館へと連れ出された。


 その犯人は、お父さんとお母さんである。

 無料であれば何にでもすぐに食いつく習性を持ってる生き物だ。なんだか準備万端で話しかけてきて、有無を言わさず私も出かける羽目になってしまったのだ。



 ◇



 横浜駅から乗った東急電鉄。馬車道駅というところで降りた。地下を走る電車のため、地上への階段を昇る。かなり長い階段で、出口が見えてきた時には少し嬉しい気持ちになった。

 地下鉄の出口からは、綺麗なうろこ雲が広がった秋空が見えた。


「いやー、やっぱり秋の外出は気持ちがいいな、母さん!」

「そうですね。空気がとても美味しい!」


 階段を昇ったことで、ハイキング気分にでもなっているのだろう。これらのセリフは、山登りした時に出てくるセリフだなと思った。

 地下鉄の籠った空気から、地上の空気を吸うと、確かに気持ちいいことに違いは無いけれども。


 キラキラと日差しを浴びてるお父さんとお母さん。階段を昇っただけなのに、少し息切れして、額には汗をかいている。山登りさながらだ。


 満足そうに笑いながら、二人でお互いの汗を拭きあってる。

 これは、私が来なくても良かったんじゃないかと思ってしまう。いつまでもラブラブなのはいいのだけれども。反抗期を我慢して着いてきた私にも接待して欲しいものだ。


 長い汗ふきタイムが我慢できずに、口を挟む。


「お父さん、お母さん。まだ目的地にも着いてないんだから、満足してないでよね!」


 私がそう言うと、二人は顔を見合わせて嬉しそうな顔をした。


「なんと! ユキも、博物館に行くのが楽しみになってたのか!」

「ユキちゃんも、楽しみだったのね! それであれば早く行きましょ!」


「いや、私は楽しみとかじゃなくて……」


 楽しそうにしてる二人に水を差すのも悪い気がしたので、そこで言葉を止めた。


「はいはい。楽しみだから早く行こう。二人で案内してくれるんでしょ?」


 そう言うと、二人とも目を輝かせて「うん」と返事をした。

 こういう素直な所が私にも引き継がれたら良かったかもなと、少し思う。二人の楽しい姿を見ると、私も少し楽しい気分になってきた。


「まだ文化の日は、始まってないんだからね?」


 私が先頭で歩き出す。

 結局、私も楽しんでいるのかもしれない。

 文化の日、たまにはこういうのも好きかもな。

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