11月

ダーツ

 放課後の教室で、帰りの支度をしていると、前方から声が聞こえた。


「今日もお疲れー! このあと、暇だったりしするー?」



 そう言いながら、私の席へとやってきた的場まとばさんだった。ニヤニヤとしながら、身体を横に揺らして話をするタイミングをうかがっているようだ。


 彼女がニヤニヤしているときは、大抵が自分のことを話したい時だ。いつもはのらりくらりと回避しているのだが、今日は不意打ちだったので逃げられなさそう。的場さんは、私の席の前に立つと、ポケットから小箱を取り出した。


 的場さんが持っていたのは、細いタイプの筆箱くらいの大きさ。何本かしかシャーペンが入らないから、あまり機能的ではないけれども、移動教室とかでは便利だな思うような筆箱。

 それを開けると、出て来たのはシャーペンと呼ぶには細いものだった。


「これ、マイダーツなんだ! カッコいいでしょー!」


 案の定、何か自慢話でもしようというのだろう。

 とりあえず、話だけは聞いてみよう。


「このダーツの矢、ちょうど良く私にフィットしたんだよ」

「へぇー? そうなんだ? フィットとか良くわからないけど、ボーリングの玉みたいな?」


「それは、全然違うよ!」


 私がなんとなく答えると、的場さんは笑いながら否定してきた。


「全然わからなくて、ごめんだけど……。何が違うの?」

「ふふふ、これのね、いちばん後ろの羽みたいになっている部分が『フライト』っていうんだけどね、それが普通よりも大きいの!」


 聞いてみても、やっぱり全然わからなかった。

 そもそものダーツっていうものも良くわからない。


 的場さんは、今すぐにでも話したくてうずうずしているのだろう。キラキラした目をこちらへ向けてきており、口元もむずむずと動いていた。


「えっと、私ダーツって全然知らないんだけれども、教えてもらいたいなー」

「ふふ、良いよ!」


 的場さんは、ダーツの矢を私の眼前まで近づけて来た。


「ここの矢の部分とは反対側を『フライト』って言ってね、これが大きいとすごい安定するの!」


 確かに的場さんが言う様に、大きい気もする。普通の大きさっていうのがわからないけれども。そして、良く見るとアニメのイラストが描かれているようだった。

 ダーツの矢から顔を上げると、的場さんのニヤニヤした顔がそこにあった。


「気付いた? これも私のお気に入りなんだ! 私の推しのキャラなの!!」


 ダーツ云々と言うよりも、この話がしたかったのだろう。一番テンションが上がったように喋り始めた。


「これが狙った所に刺さると、すっごい気持ち良いんだよ!!」

「それは、気持ち分かる気もするけども。私やったことないから、狙った所に刺さらないよ」


「うん、私もなんだ! だから、練習しに行こう! 私ダーツ好きになったの!」

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