ハロウィン

 10月31日。

 今日は、ハロウィンの日らしい。


 学校には、浮かれた陽キャな人たちが『仮装』と称して、ちょっとした小道具を頭につけていたりする。それのどこが仮装なのかと問いたくなるけれども、楽しんでいるのを邪魔しようとまでは思わない。

 ただ、それを私に強要してくるのは嫌だって思う。勝手に楽しんでくださいよっていう。


 ぼーっとクラスメイトを眺めていると、私の席に和也がやってきた。

 一応、私の彼氏。


 毎回うんちくをグダグダ言ってくる理屈屋さんなんだ。

 また今日も、ハロウィンのうんちくを言ってくるのかな。


 和也は、ブレザーの上着も着て、きちんと制服を着用している、優等生っていう雰囲気だ。

 ただ、よくよく見ると、和也も頭に仮装なのか、手のひらサイズの帽子を被っているようだった。


 和也もそういうことするのかと驚いていると、少しにやけながら話しかけてきた。


「トリックオアトリート! お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ」


 恥ずかしさからなのか、少し声が小さい。

 頬を赤らめながら、下を向いちゃっている。


 そんなに恥ずかしいなら無理してやらなくていいのに。柄にもなく、ハロウィンというイベントを楽しみたかったのだろう。

 乗ってあげないことも無いけれども、やっぱり和也の思惑に乗るのは癪に障るなぁ……。


 少しいじわるをしたくなってきた。

 私が逆に、いたずらしてからかってみようかな。


 私は机に頬杖をついてみせ、真顔で和也を問い詰めるように聞いてみたい。


「お菓子あげないと何されるわけ?」

「えっと、うんとー……?」


 和也は、私の返事に困っているようだった。

 これだけクラスの中が楽しい雰囲気なのに、きつい言葉で返されるとは思っていなかったのだろう。


 和也は困って、「あ、う、えっと」とか言っているので、少しだけいたずらの手を緩めてあげることにした。


「いたずらの内容を考えてなかったわけ? 相変わらず詰めが甘いよ、和也は。はは」


 私が笑うと、和也は下を向いて、さらに恥ずかしがった。

 終いには、頭に付けていた小さい帽子を取ってしまった。


「俺も、ハロウィン楽しんでみたいなって思っただけだよ。一緒に楽しめると思ったんだけどな……。失敗だったね……」


 相変わらず和也は可愛い所があるよね。

 打たれ弱い所が欠点でもあり、長所でもあるって思うよ。私にとってはね。


 和也に、私の手の内をさらしてあげた。


「ふふふ、これがトリックオアトリートだよ。私からのいたずらでした。どう困ったでしょ? お菓子くれたら、やめたげるよ!」


 和也は自分がいたずらされていることを悟ると、悔しがる一方で楽しそうに笑っていた。


 この顔が見れたから、今日も私の勝ちだな。



「ハロウィンって、楽しいイベントなのかもしれないね。私、好きになったかも!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る