たまごかけごはん

「お金が無いよー……」


 学食でご飯を食べようと二人席に座っている。目の前で嘆いているのは、私の一番の友達である節子せつこだ。

 相当お金が無いのであろう、おかずが無くて白飯だけが机に置かれていた。肩を落としながら割り箸を割って、白米を食べ出そうとしていた。


「今さ、私節約しているんだよね。クリスマス用にね」


 とぼとぼと話を始めるので、私は聞いてあげようと思い反応してあげる。


「クリスマスって、何か用でもあるの?」


 私が問いかけると、節子は少し明るい顔になった。


「そうなんだよ、聞いてよ聞いてよ! クリスマス辺りに、某テーマパークに行こうと思っててね」

「なんだか、サラッと彼氏持ちの自慢をされた気がしたけれども?」


「いやいや、ごめんごめん。けど、本題はそこじゃなくてね。そのテーマパークの入場料が、最近値上がりしちゃってさー」

「あぁ、なるほど。そのニュースよく見るよ。最近物価高だよね。笑い事じゃないよねー」


 私が同意して見せると、節子は何か楽しいものを見つけたような笑顔を見せた。


千里ちさと、なんだか主婦みたいな話し方になってるよ。ははは」

「それも、笑い事じゃないの! 私、まだまだ女子高生だよ!」


 一緒に笑いあった後で、再度机の上を見ると節子が質素な食事であることを思い出す。楽しむために節約したら自業自得だとおもう。私はそれに協力までしてやる義理は無いかなと思ってしまうけど、少しは同情しちゃうなぁ……。


 白米を食べ始める節子。

 肩を落として元気なく食べる。少しでも満足感を出そうとしているのか、一口を小さくして、ちょこちょこと白米を口に運んでいた。


 そんな悲しそうに白米を食べる節子が見ていられなかったため、私の定食についていた生卵を差し出した。


「なんだか見てられないから、これあげるよ。たまごかけご飯にでもしたら、美味しいと思うよ」

「え、本当! くれるの!? 嬉しい!」


 節子の顔がぱっと明るくなった。

 可愛く喜ぶ姿を見ると、こういうところが男ウケするんだろうなと、羨ましい気持ちが湧いてくる。

 私も好きな笑顔だけれども、少し嫉妬しちゃうな。


「ついでに、この醤油かけるとすごい美味しいよ」

「たまごかけご飯専用の醤油? 何から何までありがとうございます」


 私は頷いて応えてみせた。

 喜ぶ節子の顔を見れて嬉しい気持ちが湧いてきたけれども、某テーマパークに行くことが羨まし過ぎて、素直に慣れない自分もいる。


 この卵のお礼に、節子に要求してみることにした。


「私にも、お土産よろしくね」


 節子はハッとした顔をしたが、にこりと微笑んで親指を立てた。


「もちろんですよ! 卵の御恩は忘れませんよ!」

「ふふ。ありがとう」


 節子は美味しそうに私があげた卵を食べていく。


「たまごかけご飯って美味しいね」

「そうでしょー。私もたまごかけごはん好きなんだよね」

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