日本史の授業

 日本史の授業。


 先生が黒板に関西地方の地図を描く。チョークの色を分けて綺麗に描いていく。地図が書けたら、武将の名前も一緒に書いていった。もしかすると、色分けしてあるところは、大名ごとの勢力を表しているのかもしれない。


 一旦書き終わったのか、先生はチョークを置いて地図の説明をし始めた。


「これは関西地方でな。勢力図を表しているんだ。この青色部分は、織田軍の領地。こっちの赤色部分は武田軍だな」


 生徒たちは、黙々とノートに写していく。みんなカタカタと音を立てて色ペンを持ち替えていく。その間に先生は説明をしながら、黒板に書き足していく。


「それでもって、この黄色部分が徳川軍。今日の授業で説明する『長篠の戦い』はと言うと、ここで起きたんだ」


 徳川軍をつけ足して、その徳川軍の陣地と武田軍の陣地の間にバツ印を付けた。

 そこが、『長篠の戦い』の合戦場らしい。


 領地で見てみると、織田軍と徳川軍が大きいように見える。

 先生は陣地に数字を書き足していく。


「軍勢の数はと言うと、織田軍が3万、徳川軍が5000、武田軍が1万5000だな」


 軍勢で言うと、織田・徳川連合が明らかに多い。

 これだと、順当にいけば織田軍が勝つのでは?


「どちらが勝ったかは、おそらく想像通りだ。こんなに勢力差があれば織田軍が勝つだろう。ただ、この時の武田軍は負け知らずだったんだ。『武田の騎馬軍』なんて言葉聞いたことないか?」


 あ、聞いたことある。風林火山とか言ってたりする武田信玄っていう人もきっとこの時代の人なんじゃなかったっけな?


「飛鳥、なんとなくわかってそうだな」


 先生と目が合ってしまって、話しかけられた。


「『武田の騎馬軍』の前では、兵力差があっても負け知らずだったんだ。こんなに兵力を集めていたのも武田軍の強さを知った上でのことだろう。では、なぜ織田軍が勝てたと思う?」


 先生は私に答えを求めているのだろう。こちらを見たまま、答えを促してくる。まだ習っていないことを答えるっていうのは、できないでしょ……。

 それでも、先生は待ち続けているので、私は当てずっぽうで答えた。


「織田軍が武田軍よりも強かったから……だと思います」


 何も思いつかないからといって、当たり前のことを言ってしまった。

 私の回答に、教室中から笑いが起きた。


「ははは。そりゃ当たり前すぎないか?」

「強い方が勝つしね」


「うぅー……。先生、難しいからわからないよ……」


 先生は笑はせずに、私のことを見つめて「うん」と頷いた。


「飛鳥が言ってくれたことが正解だぞ。武田の騎馬軍よりも強かったんだ。この時の織田軍は鉄砲隊というものを作っていたんだ。それが騎馬隊よりも強かった」


 先生は、授業へとつなげてくれた。


「みんな、飛鳥に拍手! 当たり前と思えるくらいで戦に挑もうという姿勢が織田軍はカッコいいだろ?」



 先生の授業は難しいところであててくる。

 けど、それでも、生徒のことは全力で肯定してくれるんだ。

 私は、授業を盛り上げるのに一役かったことになった。


 楽しい日本史の授業。

 私は、この授業が好き。

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