文鳥

 教室で飼っている文鳥がいる。

 名前はピーコ。私が名前を付けた。


 私が唯一の生き物係だから、独断で付けた。


 学期の最初にクラスの係決めを行うのだけれども、誰もやろうとしていなかったのだ。

 手を上げないクラスメートたちは、知らん顔でそっぽを向いていたりした。そんなに生き物が嫌いなのかなってくらい。


 誰も世話をしようとしないのが可哀想だったから、私だけが立候補した。


 なので、毎日私だけが世話をする。

 放課後に一人教室に残って、部屋の掃除と餌やりをするのが日課だ。



 ただ大変そうに見えるかもしれないけれども、そういうわけでも無い。

 文鳥という生き物はすごく可愛いのだ。


 文鳥は、人の言葉を覚えるのが得意。挨拶をしたり、名前を読んであげると、ちゃんと覚えてくれているのだ。

 掃除が終わったので、餌を入れた容器を鳥かごの中に入れてやる。


「ピーコ、今日の餌だよ」

「アリガトウ!」


 私が教え込んだので、ピーコはお礼を言えるようになった。

 このお礼を言ってもらえるだけで、疲れが吹き飛ぶ。頬が限界まで緩んでしまいそう。


「ピーコは可愛いね! ふふ」

「アリガトウ! アリガトウ!」



 そうやってやり取りするのが、最近の幸せだ。

 けど、今日に限っては、私とピーコのラブラブタイムがいきなり崩された。


「いっけねー! 忘れ物、忘れ物!」


 そう言いながら、野球部の櫻井が教室へと入ってきた。

 今日は部活が無いようで、スクールバッグしか持っていない姿だった。


 櫻井は、私とピーコに気づいた。



「お、鳥野。今日もピーコの世話? お疲れ様!」

「うん」



 櫻井は忘れ物を見つけると、ついでに私たちの方へとやってきた。

 そしてピーコへと話しかけた。


「ピーコは、いつも可愛いな!」

「アリガトウ! サクライ、スキ!」


 櫻井は予想外の反応に目を丸くした。


「あれ? こいつ、なんでこいつ俺の名前 こいつ、なんでこいつ俺の名前知ってるの?」

「あ、あはは……。私が教えてあげたんだよ、ははは……」


「サクライ、スキスキ! カッコイイイ!」


 ピーコは暴走気味にしゃべりだした。


「も、もう……。ピーコは櫻井のことが好きなんだって。おませな子だなー。ははは……」

「良いね、ピーコ。ありがとう」


 櫻井はピーコに向かって、素直にお礼を言う。そして、ピーコを見ながら私に話しかけてきた。


「ピーコってさ、何かお前に似て可愛いな」

「え、ああ、そうかな……?」


「俺のこと好きらしいから、餌でも買ってあげたら喜ぶかな? 鳥野って、そういうの詳しいんだろ?」

「え、あ、うん。そうだね。餌、ちょうど無くなりそうだし」


「じゃあ、俺が買ってやるよ。けど、よくわからないから一緒に行ってくんない?」

「い、いいよ!」


「じゃあ、行こうぜ! 今日、部活なくて俺暇なんだ」

「うん」


 私と櫻井の距離が、急接近した気がした。

 これって、ピーコのおかげかも……。


 私も急いで鞄を持って、歩き出した櫻井の元へと急ぐ。


「ピーコって可愛いな」

「そうだよね。私、文鳥好きなんだ」

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