じゃがりこ

 食後のおやつタイムは、うわさ話に花が咲く。


「じゃがりこを分けあった男女って、カップルになるっていうよね」

「なにその都市伝説?」


「知らないの恵美めぐみ。有名だよ?」

「そうなんだー? けど、じゃがりこって美味しいから一人で食べたくなっちゃうよね!」


 食べていたじゃがりこの残りが数本になったから箱から取り出して、箱は捨ててしまう。


「恵美、気持ちはわかるよ、わかる。けど、誰も取ったりしないからゆっくり食べなよ?」

「はは。取られたくない意思表示がバレちゃった?」


 ――ガラガラガラ。


 教室の扉が開いたかと思うと、次の授業の先生がもう来てしまった。


「あれ? 授業開始の5分前だっていうのに早くない……?」


 先生は教卓に着くと、すぐに話し始めた。


「授業始めるぞー! みんな席に着けー!」


 先生の掛け声で、蜘蛛の子を散らすようにぞろぞろと席へ戻っていった。私も席へ戻った。

 じゃがりこは箱を捨ててしまったので、手に持った状態で席へと着く。


「これ、早く食べ終わらないとだな……」


 とりあえず授業を始める準備をしようと、片手に持った状態で教科書とノートと筆記用具を取り出す。


「それじゃあ、始めるぞー。教科書70ページからだったな。続きからやるぞー」


 教室の中は静かになり、授業が始まった。

 早速、先生がすごい速さで板書を始めた。この先生は、最初に一気に板書しちゃって、その後で説明していくんだよね。早く書きとっちゃわないと、話について聞けなくなっちゃう。


「……これ。じゃがりこ持ってたら、全然書けないじゃん。早く食べるしかないか」


 ノートに写すフリをしながら、静かにじゃがりこを口に入れる。

 じゃがりこという物は、食べるときにどうしても音が出てしまう。噛んだら、はじけるようにカリッと音がする。そこが美味しいのだけれども、今は音がしないで欲しい。


 ゆっくり噛めば大丈夫なはず……。


 ――カリッ。



 ……あ、やばい!



 ――カチャンカチャン!



 じゃがりこの音とは別の音が隣の席から聞こえた。


「あ、すいません。筆箱落としちゃっいました。ちょっと拾います」


 先生はこちらを振り向いたが、隣の席の杉本の方を見ると、やれやれといった顔をした。


「ああ、杉本か。相変わらず、おっちょこちょいだな。気をつけろよー」


 先生はそう言うと、黒板の方へと向き直り高速の板書の続きを始めた。


 杉本が席を立って、筆箱を拾い始める。そして、私の方をちらりと見てくる。


「ほら、今のうちに食べろ。食べきれないなら、俺にも少し分けろ」


 渡りに船と思い、ついつい杉本の口へとじゃがりこを入れてしまった。杉本は、ぱくりと一本丸々を口に入れてしまう。


「さんきゅー!」


 席に戻る杉本。

 音がしないように、良い具合に食べているようだった。


 意外に良い奴なんだ、杉本って。

 黒板を一生懸命に写す横顔が、何だかカッコよく見えた。


 二人で分け合う、じゃがりこか……。


 杉本なら、いっか。



 私は手に持っていた最後の一本を口の中にほおばり、板書に集中する。

 口の中に広がるじゃがりこの甘味。やっぱり美味しいな。


 ……じゃがりこ、好きだな。

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