イカの塩辛

「体育祭、お疲れ様でしたー! 乾杯ー!!」

「「乾杯ー!!」」


 今年の体育祭も無事に終えることが出来た。

 うちの高校の体育祭はクラスごとに競われる形だ。クラス中で頑張ろうと励まし合い、全員が力を合わせて頑張ったおかげで、私たちのクラスは優秀賞に選ばれた。

 優勝賞に選ばれたクラスには、少しばかりの賞金が出る。その賞金で打ち上げに来ている。


「みんなで頑張って掴んだ優秀賞だからね! 好きな物、じゃんじゃん頼んじゃって良いからー!」


 クラスのお調子者の半田が言う。周りも盛り上がって、喜びの声を上げていた。

 仲が良くて楽しいクラス。このクラスの一員で良かったと思う。



 店員さんを呼ぶと、口々に注文をし出す。


「私、ピザ!」

「いいね、私にも分けてー!」

「みんなで分け合おうー!」


 私も混じって注文をする。


「イカの塩辛お願いします」

「えっ? 聡子さとこオヤジくさっ!」

「はは。好きな物だろうけど、渋いよー!」



「あれ? そうかな。はは……。けど美味しくない?」


 注文に失敗したかなと思っていると、長机の方から声が聞こえて来た。


「俺、イカの塩辛で、お願いします」


 奥の席は、別の店員さんに注文していた。こっちの声は聞こえていなかったらしいから、同じものを頼んでいるようだ。こちらの席と同様に、多分食べる人がほぼいないイカの塩辛。


「あれ、猪狩いかりくんもイカの塩辛好きなの?」


 私の周りにいた女子も、猪狩くんの注文が聞こえたらしく、猪狩くんを弄り始めた。


「それ、なかなかおじさん臭いよー!」

「猪狩くんのイメージ、ちょっと崩れちゃうかもー」

「「はははは」」


 それに対して、猪狩くんは照れ笑いをして答える。


「あれ? おかしいかな? イカの塩辛って、甘辛くて美味しいじゃん?」


「なにそれー! 聡子と同じこと言うじゃんー!」

「二人とも似たもの同士じゃん。イカの塩辛グループは席変えようか?」

「そうしようか? 別に好きでいいんだけれども、席狭いから同じもの食べる人同士でくっつこうか。ごめんね」


「あ、はーい。私がそっち行くね」


 私と猪狩くんは、端の席へと追いやられた。


 あまりしゃべったことは無いけれども、猪狩くんって女子に人気なんだよね。なんでかなって思ったけれども、カッコいいからか。初めて近くで見たけど、カッコいい。


「俺と同じで、好きなやついて良かったわ」

「私もだよ。まさか同じものを注文する人がいたとは思わなかったよ」


「やっぱり、良いよな。たこわさとかも好きじゃない?」

「あー、わかるわかる! 私も好きだよ!」


 何気ない会話が続いた。

 他の人たちから切り離された、二人きりの空間。


 そこに、イカの塩辛が運ばれてきた。

 先に猪狩くんが箸をつけた。


「あ、ごめん。箸つけちゃったけど……。こういうの気にする方?」

「いや、私は気にしないよ!」


「そっか。聡子って、なんかおもしれぇよな。はは」


 笑う猪狩くん。

 イカの塩辛を少しだけ取ると、こちらに渡してくれた。


 なんだか二人でデートしているような気分。


「イカの塩辛が好きで良かった!ふふふ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る