冷凍グラタン
――キーンコーンカーンコーン。
午前中の授業が終わった。
昼食を食べるための長い昼休みの時間が始まる。
その時間になると、いつも聞こえてくる歌がある。私の友達、珠美が歌っている歌だ。明るい声でウキウキと近づいてくる。
「お弁当、お弁当、嬉しいなー!」
私の机にお弁当を置いて、開いていた前の席に腰かけた。嬉しそうに左右に揺れる。
こんな玩具あったなぁと見つめていると、笑顔を浮かべながらお弁当を入れた巾着袋を開けて、お弁当を食べる準備を進める。
ウキウキする珠美を見ながら。私もお弁当の準備を始める。
「珠美は、いつも楽しそうだね」
「そうだよ。お弁当の時間って楽しいじゃん? お母さんが作ってくれているから、美味しいしねー!」
無邪気に笑う珠美には、嫌な感じはしない。
ただ、みんながみんな、お母さんに作ってもらっているわけじゃない。
「珠美はいいね。お母さん手作りのお弁当で」
「ほぇ? 恵美ちゃんも、美味しそうなお弁当じゃん? いいなー!」
「そんなことないよ。これ、全部冷凍食品だもん……」
昔は、私もお母さんの手作りのお弁当だったけれども、最近は冷凍食品ばかり。
お母さんが忙しいから、しょうがないけれども。
「けどけど、これお母さんが詰めてくれてるんでしょ?」
「それはそうだけど……」
「すっごい綺麗に盛り付けられているよ!」
私のお弁当をまじまじと見ながら、珠美は言う。
「お弁当ってさ、栄養の偏りが無いか気にしたり、彩を気にしたり。この時期だと、腐りやすいものは無いかーって気にしちゃんだよね。恵美ちゃんのお弁当は、そういうところが全部気遣ってくれているように見えるよ」」
そう言われたら、赤、黄、緑、茶。
確かに、満遍なく入っている。
「黄色を担当している玉子焼きは、多分冷凍じゃないよね?」
「えっと、確かに玉子焼きは家で作ってもらう味がする……」
珠美は、お弁当から目を上げて、こちらの方を見て来た。
「恵美ちゃんのお弁当も、お母さんがちゃんと作ってくれているよ! だから、すっごく美味しいはず!」
私は目から鱗が落ちたようだった。
冷凍食品なんて手抜きだって思っていたけれども、ちゃんと私のことを考えてくれていたんだ。
毎日毎日。
自分はすごく忙しそうにしているっていうのに。私のことを考えてくれて……。
珠美は、何かに気づいて私のお弁当の中身を指さした。
「あ、私のお弁当と一緒のおかずが入ってる! この冷凍グラタンって美味しいよね!」
冷凍グラタン。
私のお気に入りのおかず。
小さいころ、お母さんに言ってたな。
「お弁当には必ず、これ入れてね!」って。
お母さん、私のことをちゃんとわかってくれてるんだ。
「これ、一緒に食べよ! 食べ終わったら占い出てくるの楽しいよね!」
「ふふ。それ、わかる。私も小さいころから冷凍グラタン食べてたからね。私の一番大好きなおかず!」
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