鉄道

 三連休にデートをしようと持ちかけられた。

 二つ返事で了承した。


 久しぶりのデート。

 最近は、私の部活が忙しかったから全然遊びに行けてなかったんだ。私の予定を把握してるのか、彼の方からデートに誘ってくれたのは嬉しかったなぁ。


「ふふ。今日はどんなデートになるのかな」



 最寄りの駅は、小さな駅。改札の外にいても、すぐ近くに電車が通っているのが見える。

 気合いを入れて早く来すぎてしまったのか、何本か見送るのを眺めていた。


「まだ来ないのかなー……」


 そう思って駅前で待っていると、ようやっと彼が来た。

 オシャレな秋の装い。清潔感のあるシャツに、スラッとしたパンツ。秋色を意識したコーデ。

 久しぶりに私服をみるけれども、やっぱりオシャレだ。


 ただ、何やら大きいカメラを手に持っているようだった。望遠用なのだろうか、レンズが長い。プロのカメラマンが持つような感じだ。

 目の前まで彼が来た。


「おはよう! 今日は快晴だね。まさにデート日和!」

「ふふ、デート久しぶりだね。けど、そのカメラどうしたの? 今日の予定って、紅葉でも見に行くんだっけ?」


 彼はカメラを持ち上げて見せてくれた。


「これ? 最近カメラにハマっちゃってね! せっかくならデート中に撮ろうかなって思って。久しぶりのデートだから、写真を撮って思い出に残そう!」

「綺麗な写真撮れるといいね!」


 駅の改札に入ろうとすると、電車が来るところだった。今から走っても乗れないだろうなと思っていると、彼がカメラを構えた。そして、駅に入ってくる電車の写真を撮りまくった。


「おぉー。うんうん、いいよいいよ!」


 角度なんて変わらないだろうに、立ちながら撮ったり、座って地面スレスレにカメラを構えてローアングルから撮ってみたり。


「……あ、あれ? 写真を撮るとは言ってたけど、電車?」


 私の言葉は彼に届いていないようで、電車が止まってからもカメラを構えて写真を撮っていた。とりあえず気が済むまで待つことにした。


「いいね、いいね! 5000形はキレイだ……」


 しばらく見ないうちに、うちの彼氏は電車色に染まってしまったらしい……。

 電車が出発した。その時も電車の後ろ姿をカシャカシャと連射しながら撮っていた。


 電車が見えなくなると、彼は我に戻ったようにカメラから手を離した。そして、私の方を向いた。


「あ、ごめん。夢中になっちゃって……」

「いいよ、いいよ。少し見ない間に電車好きになったんだね。そのカメラも、電車撮るためなのかな?」


「う、うん」

「別に怒ってないよ? 私も鉄道好きだからさ! ほらほら、私も一緒に撮ってよね!!」

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