ピザまん

 小腹が空いたなと思い、コンビニに入る。

「いらっしゃいませ」の声は聞こえ無かった。店員は奥に引っ込んでいるようだ。


 レジを横目に通り過ぎようとすると、中華まんの入れ物に値引きするセールの張り紙がしてあった。少し肌寒い季節に小腹を満たすには、調度良いかもしれない。


 中華まんの入れ物をのぞき込む。

 上から特製肉まん、肉まん、ピザまん、カレーマン、あんまんと並んでいる。


 この並び方は人気順という訳では無いだろう。ピザまんはオレンジ色、カレーマンは黄色をしている。肉まんとあんまんは白色をしているので、その人気二商品を間違えないように、間に違う色を挟み込んでいるんだと思う。


 特に、ピザまんっていうのは、中華まんのケースを賑やかすだけの存在かもしれない。



 私の周りには、なかなか好きって言う人いないけど、私はピザまんが好き。王道じゃないかもしれないけど、人の好きなんてそんなものだろう。


 賑やかしピザまんの数は少ないけど、私みたいなやつが必要としてることもある。私はピザまんを買おうと店員さんを呼んだ。


「すいませーん、レジお願いします」


「あ、はーい! 今行きまーす!」


 バイトの店員さんを呼ぶと、やってきたのは元彼だった。


「あっ……」


「ども」


 私も彼も目を逸らして、気まずい時間が流れる。


 ここが彼のバイト先って知ってたのに、気を抜いてたな。けど、今日って彼のバイトの時間じゃ無いはず。


 って、付き合ってた頃と、シフトも変わるか。


 気にしても仕方ないから、淡々と注文を進める。


「あの、ピザまん一つください」


「はい、かしこまりました」


 彼も落ち着いて、仕事を進める。

 もう私の事なんて、気にして無いのかな。


 特にカッコイイ訳でもない。どちらかと言えば、好みが分かれるような、味のある顔。身長も高くなくて、愛想も無い。

 電車好きな趣味があったり、私と合わない気もするし、なんで好きだったんだろうな。


 ……って、私の方が気にしちゃってるじゃん。

 彼からも、そう思われるのが嫌だから私から話しかける。


「シフト変わったの?」


「いや、今日はピンチヒッター」



「そっか、昔と変わんないね」


「当たり前だろ、人ってそんなすぐ変わんないし」


 彼の素っ気なさが、少し懐かしく感じた。


 別に嫌いになったから別れた訳じゃない。デートとかメールとかの頻度が下がっていったから、自然消滅という形で関係が終わってしまった。

 高校での彼氏彼女の関係なんて、だいたいそんなものだ。


「また、ピザまん食うんだ? お前それ好きだったよな」


「そうだよ。人って変わらないもん」


「だよな」


 何も言わずにバーコード決済画面を出す。彼も、気にせず処理を続けてくれる。息もピッタリ。


「……俺も、好きなもの変わらないけど」


「なにそれ。ダサ」


 私の返答にめげずに、見つめてくる。彼の顔はいつでも真面目。

 好きなものっていうのは、やっぱりいつまでも好きかもしれない。



「私も変わらないよ。いつまでも好きだけど? ピザまん好きなのと同じだし」

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