ウィンク

 机の上に置いたスマホ。

 そこに映し出されているのは、グループアイドルが歌ってる映像。


 友達の茜と一緒に、食い入るように見ている。



「はぁーーー、やっぱり、可愛いよぉー一!」

「だよねー!」


 サビが終わると、激しいダンスが始まる。十人以上いるグループだが、全員の動きがピッタリと揃っている。

 その姿も、私と茜を夢中にさせる要因の一つ。


「ああー、ここここ! ここカッコいいよね!?」

「うんうん、わかる。ここ好き!」


 その後、ソロパートに入る。

 二人で、息を合わせたように黙る。


 ソロパートは、しっかり聞き込むもの。

 私と茜の暗黙のルールであった。

 激しいダンスから一転して、しっとりと歌うアイドル。それが心に響いてくる。


 私のソロパート。

 自分のパートが終わるところで、ウィンクをした。


「はわぁぁぁぁ……」


 茜との約束を破ってしまって、声が漏れ出てしまった。

 おそるおそる茜の方を見ると、私の声のことは気にせず画面に食いついていた。


 きっと、茜の推しのソロパートだからだろう。

 目を輝かせて見ている。


 すると、そのアイドルも歌い終わりにウィンクをした。


「はああぁぁぁぁああーーん!」


 私の声よりも、茜の漏れ出る声の方が大きかった。

 気持ちはすごくわかる。これはしょうがない事だって思うよ。だって、推しのアイドルがこっちを見て、ウィンクをするんだよ。



 スロットで例えるなら、7が二つ揃ったところで、最後の7がピタッと止まった時と同じくらい。


 正月と盆が一緒に来たって、嬉しいときは言うけれども。正月と盆のにすると言われたくらいの衝撃。



 あれを見て、声が出ちゃうのはしょうがない。


 何も言わずとも、私たちは分かり合っていた。

 どちらともなく、うんうんと頷きあった。


 最後のサビまで聞いて、動画は終わった。



「あれは卑怯だよね!」

「もう、私やられたよ。打ち抜かれた。はあああああーーー、良い! とっても良い!!」


 茜は幸せそうな顔のまま、こちらを向いたかと思うと不器用にウィンクをした。

 たった今見たばかりのアイドルの真似をしているのが分かったので、ちょっと笑ってしまった。



「茜の推し、可愛かったよね。けどけど、私の推しのソロパートも良かったでしょ?」


 私も茜にやり返すように、映像に映し出された推しの角度と同じようにして、茜にウィンクした。


「ははは、真紀ってウィンク下手だね! こうだよ、こう!」


 茜も再度ウィンクをし返してくる。

 私たちは、二人ともウィンクが下手なようだった。


「やっぱりさ、アイドルってウィンク上手いよね。憧れちゃうなー」

「そうだよね。良いよね。私、ウィンクって大好きだな!」

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