きつね

 午前中の授業が終わったので、学食へ行く。

 お弁当を食べるにしても、学食が食事場所となっているのだ。


 うちの学校は、すごく広くて綺麗なのだ。学食だけが自慢かもしれない。



 色んな生徒がいるけれども、私は親から昼食代をもらっているから学食で買うことにしている。。


 余ったお金は私のお小遣いにしていいことになっているから、学食の安さというのは魅力的だ。

 安いことこそ、正義かもしれない。


 今日も、お気に入りのそばを頼んで席へと着いた。

 いつも適当に座って、その時一緒になった人と昼食を食べたりしている。


 今日一緒になったのは、木津根きつねだった。

 木津根きつねも、学食で麺類を買っているようで先に麺をすすっているところだった。


「久しぶりだね。元気してた?」

「おひさ、田貫たぬきさん。違うクラスになってから、あんまり合わなかうなっちゃったよね」


 木津根きつねは、食べる手を一度止めて私の方へ笑みを返してくれた。

 昔は仲よく学食に来ていたりしたけどね。久しぶりに会うと、ちょっとテンション上がるかも。


 早速私も、割り箸を割って食べようとすると、木津根きつねが食べているお椀の中身が気になった。


「えっと、木津根きつねが食べているそれなに?」

「たぬきうどん!」


 美味しそうに食べているけれども、不思議に思ったので尋ねてみた。


「うどんって言ったら、『きつねうどん』じゃない? お揚げが乗っているうどんじゃないの?」


 木津根きつねも首をひねって不思議そうな顔をした。


「私は、たぬきうどん派だよ? 美味しいんだよこれ。それを言ったら、田貫たぬきさんが食べようとしている、それはなに?」

「これは、きつねそば!」


 木津根きつねは、不服そうな顔をしながら言ってくる。


「そばって言ったら、『たぬきそば』じゃない? 天ぷらとか揚げ玉が乗ったそばじゃないの?」


「いやいや、そばはこれだよ!」

「それを言ったら、うどんもこれだよ!」


 ムスッとした顔をして見たけれども、二人とも耐え切れずに顔を見合わせて笑った。


「相変わらず、木津根きつねは『たぬき』が好きなんだね! 何にでもお揚げを乗せて食べたがるでしょ?」

「それを言ったら、田貫たぬきさんも『きつね』が好きだよね。ご飯にも揚げ玉乗っけて食べてるの見かけるよ?」


「え、見られてたの? 恥ずかしい!」


「「はははは」」


 木津根きつねと一緒に食べる問いは、こういう話ばかりする。

 仲が良すぎて、『狐と狸コンビ』なんて呼ばれていた時期もあるくらい。


 久しぶりに木津根きつねと食べるお昼ご飯は、いつにもまして美味しく感じられた。

 木津根きつねが感慨深く、口を開いた。


「やっぱり私、『たぬき』が好きだなー」

「私も、『きつね』が好きだよ!」

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