ミステリー

 午前の授業が終わり昼休みになったので、鞄の中からお弁当を取り出す。

 ほとんどのクラスメートは自分の席に座って、自分のお弁当を出しているところだ。


 友達同士で席をくっつけて食べようとしているクラスメートもいる。

 コロナ禍も少し収まってきたということで、雑談を交わしながら食事も良いことになったのだ。

 そんなお弁当の時間が私は好きだった。

 気を抜くことができる唯一の時間っていう感じがして、心がとても安らぐ時間。



 今日も美味しくお弁当を食べよう思っていると、葉月はづきが席を立った。

 ゆっくりと歩いていき、教卓の前で止まると教室中を見渡すと口を開いた。


「皆さん、注目してください!!」


 教室の後ろの席まで通る大声で言うものだから、みんな葉月の方向を向いた。



「えー、こほん。皆さんに大事なことを言わなければなりません。今日の午前中の間に、華子ちゃんの消しゴムが消えたようなのです」


 みんな、頭の上にハテナマークが乗っかったように、首をひねった。葉月は、いきなり何のことを言っているんだろう?


「これは事件です。皆さんのアリバイを聞きたいと思います。今から一人ずつ聞いていくから、教室から出ないでね!」


 そう言うと、教室の出入り口付近の席から聞き込みを開始した。


 葉月って、昔から正義感が強い所があるけれども、今日は何だろうな。

 もしかすると、推理小説にでもハマっているのかな?


「そうだそうだ、帽子をかぶらないと!」



 葉月は自分の席にある鞄をごそごそと探ると、帽子とマントを取り出した。それらをつけると、引き続きクラスメートへ聞き込みを開始した。

 帽子も探偵が被るようなもの。シャーロックホームズがかぶっているような帽子だ。


 テレビでは見たことがあるけれども、お店で売っているのは見たことないんだよね。わざわざネットで買ったのかな?

 小道具と言うのか、メモ帳も何だかオシャレなものを使っている。


 恰好は、推理小説の中で見るそれと全く同じだ。


 そこまでするのかっていうくらい細かいところまで。

 どれだけハマっているんだろうな。


 こんなにこだわっているところを見ると、事件もでっち上げなんじゃないかって疑っちゃうけれども。

 葉月は、真剣な顔で聞き込みを続けていった。


「なるほど、消しゴムに見覚えは無いということですね。わかりました」


 順番に聞き込みが進んでいって、葉月は私のところまで来た。


「それでは、あなた。今朝から華子ちゃんの消しゴムは見たでしょうか?」

「いや、私は見てないよ?」


 私が最後の聞き込みだったようで、私の回答を聞き終わると葉月は頭を抱えていた。


「うーん。誰も心当たりがない。これは、迷宮入りかもしれないぞー……」


 私は、困っている葉月に少しアドバイスになるかと思って聞いてみる。



「華子ちゃんの鞄の中とか見てみた? 消しゴムって、そういうところに落ちて入りやすいよ」

「なるほど!」


 葉月と華子ちゃんは、鞄の中を探ると消しゴムを発見したようだった。

 二人で、「あったー!」と喜んでいた。


 葉月は、華子ちゃんに向かって言っていた。


「万事解決だね! 私、ミステリーって好きなんだ!」

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