カロリーゼロ

 食欲の秋。

 街中には美味しいものが溢れる季節。

 右を向いても、左を向いても、季節の商品がそこら中にあるように見える。


 ダイエット中だっていうのに、目に飛び込んで来るのは美味しそうなものがばかり。

 特に、甘い食べ物を見ると、ついつい食べたくなってしまう。

 秋っていう季節は罪深いよ。まったく。



 学校の帰り道。駅前にあるドーナツ屋さんを通り過ぎるときに、新作のドーナツのポスターが目に入った。


 季節に合わせて『栗』を使ったドーナツ。生クリームと合わせた栗クリームがドーナツの中に入っているというもの。断面にクリームがたっぷり詰まっていて、表面にはカリカリとしたナッツが散りばめられているようだった。


 ドーナツのポスターを見ていたら、私の口にそれが飛び込んで来たように錯覚してしまう。

 外はカリカリで、中はふわふわ。クリームが中からあふれ出してくる。


 想像の中で口の中に入ってきたドーナツは口の中に広がっていき、口の中に秋が広がってくる。



「小さい秋がいっぱい見つかるよ……」


「京子どうしたのいきなり。あ、あれのこと? あのドーナツ美味しそうだよね」



 友達の茜の声で、我に返った。


「危ない危ない。ありがとう、茜。想像の中でドーナツに溺れるところだったよ」


「何それ? 変なこと言わないでよ。あはは」



 笑いながら、ドーナツ屋さんを後にして、駅の改札を入ってホームへと向かう。

 茜が思い出したように笑った。


「そういえばさ、京子って最近ちょっと変だよね。ぼーっとしてたかと思うと、想像の中で甘いものに溺れているんだよ? 飽きなくて面白いけどさ。ははは」


「それね。最近ダイエットしてさ。甘いもの食べないように我慢しているんだけど、やっぱり食べたくなっちゃうんだよね」



「そうなんだ。食欲の秋だもんんで。そういう時は我慢せずに食べた方が良いよー? 我慢していると、いつか我慢しきれずにいっぱい食べ過ぎちゃうんだよ?」


「そうかもしれないけどさー」



 茜は、スマホを操作すると、画面に映し出された写真を見せて来た。


「これね、カロリー少ないんだよ。けど、すっごく美味しいの。甘いんだよ」


「何それ、プリン? すっごい美味しそうなんだけど!」


 茜は、ふふといたずらっぽく笑うと、画面をスライドしていった。


「これのパッケージがこれね。正解はこんにゃくなんだけどさ、こんにゃくだって気付かないくらい甘くて美味しいの!」


「これ、パッケージに書いてあるけど、カロリーゼロなの? 本当?」



「んー? 本当だ、そう書いてあるね。カロリーゼロだけど、美味しいものは美味しい! 帰りに買って帰ろう!」


「うん!」



 秋に太りすぎることを気にする子には、これ以上甘い言葉は無い。

 カロリーゼロ。好きな言葉!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る