データの見える化

 部活動が終わった後の帰り道。

 時刻は19時になるところ。外は真っ暗だった。


 最近まで日が落ちるのも遅かったと思ったのに、いきなり季節が進んでしまったようである。


 一緒に歩いている幸子さちこの姿も見えずらい。暗闇から声が聞こえてくる。


「もう真っ暗だね。亜紀あきちゃんの顔も見えないし」

「確かに、私も幸子の顔が見えないよ。真っ暗」


 笑いながら、どちらともなく手をつないだ。



「夜も涼しくなってきたし、冬ももうすぐって感じだよね」

「さすがに冬はまだ来ないよ。まだ十月だよ?……というか、もう十月なんだよね」


「なんだか、日が落ちるのが早いと一日が終わるのも早く感じちゃうよね」

「そうだよね。今日もやりたいこといっぱいあったと思ったのに、もう終わっちゃうのかーって」



「毎日そんな忙しいのかなって思うけれども、気が付けば寝る時間だし」

「わかるわかるー。私も同じこと思う」


「何でそんなに時間が無いんだろうね。もっと遊びたいなー」

「成績落ちてきちゃったし、勉強してると思ってるのになんでだろうね」



 二人で会話を交わしていると、後ろから声が聞こえてきた。


「そんな時は、一日の中で何をやっているか書き出してみるといいよ」


 その声に驚いて、私と幸子は手を離した。

 暗いからわからないけれども、声からすると先輩だと思う。


「後輩が悩んでる声が聞こえて、ちょっと走ってきちゃった」

「そうなんですね。びっくりしちゃいましたよ」


 ……ビックリしたから、せっかくつないでた手も離してしまったし。


 先輩はスマホの画面をつけると、こちらに見せて来た。


「こんなアプリが合ってね、一日の時間が見える化できて便利だよ!」


 画面には、円グラフと表が映し出されていた。

 円グラフには、勉強、部活、ご飯、睡眠など、一日のうちの行動の時間が記録されているようだ。

 その下の表には、どれがどのくらい時間を使ったか累計時間が書いてあるようだ。


「時間を入れてくだけで、円グラフとかで見える化してくれるんだ」

「見える化って、これのことですか? 確かにパッと見ただけでわかっていいですね」


「だろだろ? ちょっと入れて見なよ。これで生活改善できるからさ」


 私と幸子は、自分のスマホに一日の時間を入れてみる。

 試しに昨日の分を入れてみた。


「どんな感じ? 先輩である私が見て、改善点を教えてあげるよ! 大体ゲームをしたりする時間が長かったりするからね」


 私はスマホに映し出された円グラフを見つめて、気づいたことがあったため、先輩から画面を隠した。


「なんで隠すの? 何かやましい事でもあったりするのかな、例えば彼氏と電話とか? そういうのも損談に乗るよー?」

「いえ、大丈夫です。私で考えて改善してみます!」


 そう言うと、先輩は「そっか、年頃だね」なんて言いながら、先に歩いて行ってしまった。



 私のスマホに映し出された円グラフ。

 ほとんどの時間が、幸子と電話している時間だった。

 これは、改善しようがないな。


 そう思って、幸子の手を握った。


 幸子も同じことを思っていたのか、ぎゅっと手を握り返してきた。


「誰にも見られないように隠している関係っていうのも良いけど。データとして見える化するっていうのも良いよね。……好きだよ」

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