フルーツグラノーラ

 黒板の前にいる数学の先生。

 教卓の上に置いてある教科書を見ながら、黒板に数式の続きを書いていく。


「これは、さっき教えた定理を使って解いていくんだ」


 授業時間を気にしているのか、生徒たちの状況は考慮せずにすらすらと黒板へ書いていく。

 もはや、生徒たちの方にお尻を向けて、がっつりと黒板の方を向いてしまった。チョークの色を変えるなんてせず、ひたすら白いチョークで書いていく。


「教えてくれる気はあるのかな?」と、問いたくなるけれども。

 全然理解できていない生徒たちの方が悪いのかもしれないと思い、誰からも声は上げられなかった。



 私も、黒板に書かれている数式や定理の意味が全然分かっていない。なので、ひたすら数式をノートに書き写していくしかない。


「テストに出るから覚えておけよー」


 先生がそう言うと、ちょうどチャイムが鳴って授業が終わった。先生はチャイムがなり終わる前に教室を出て行ってしまった。



「はぁー……」


 高校の授業ってやっぱり難しい。

 夏休み明けから、授業スピードが上がっている気がするし。


「綾香! ご飯食べよー!」


 呑気に私の席へとやってきた美智子。

 美智子は、勉強に追いつけているのか、諦めてしまっているのか、悩まない性格なのか。さっきの授業のことは全然気にしていない素振りだった。


 それでいいのかなって思うけれども、そんな美智子の姿は私の救いだったりする。


「昼御飯だけが、日々の癒しだよねー!」

「そうだよねー」


「やっぱり、私には数学は向いてないことが分かったよ。やっぱり時代は文系だよね」

「うんうん。気持ちわかる」


 美智子はおもむろに、A4サイズくらいの袋を取り出した。


「フルーツグラノーラ?」

「うん? そうだよー。これが今日のお昼ご飯!」


「家の中では見慣れた袋だけど、学校にあると違和感があるよ……?」

「えー。変な顔で見ないでよー。これ美味しいんだよ? 栄養も豊富だし!」


「それは、わかってるけど、お昼ごはんにそれを持ってくる子を初めて見たからビックリしてるんだよ」



 美智子は、首を傾げていた。


「とっても良い食事だと思うんだけどね。皆も食べればいいのに。綾香も食べる?」

「い、いや。私は遠慮しちゃうかな」


「そっか、それなら私一人で食べちゃうね!」


 美智子はそう言うと、500mlの牛乳パックを開けると、その中へフルーツグラノーラを入れ出した。


「え……? そうやって食べるの!?」

「うん、やっぱり牛乳と一緒に食べてこそでしょ? 袋にも書いてあるじゃん?」


「えっと……。初めて見ることばかりでビックリなんだけども。数学の問題よりも、美智子の行動は難解かもしれないよ」

「きっと、理解するんじゃないんだよね。感じるんだよ。数学ができる人もそう言ってたし!」


 そう言いながら、美智子はフルーツグラノーラを美味しそうに頬張った。


「美味しいー」



 難解だろうとも、美智子の笑顔を見るとやっぱり癒される。考えるんじゃなくて感じるって、そういうことなのかもしれない。


「私、フルーツグラノーラ大好きなんだー! ふふふ!」

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