2024年10月
磁石
昼休み。
学食から教室へと戻ってくると、カップルが喧嘩しているのを見かけた。いつも喧嘩しているカップル。
飽きもせずによく喧嘩するなーと思いながら、隣を通り過ぎて自席へ座る。
教室はざわざわと話し声が聞こえるが、喧嘩している二人の声が聞こえる。
「私、飲むヨーグルト買ってきてっていったじゃん! 何よこれ!!」
「いや、言われた通り、飲むヨーグルトだろ!」
「季節限定の栗味とか、いらないよ! 雑味の無い純粋な甘さが欲しかったの!」
「お前栗好きだろ! ケーキ買いに行くと、絶対にモンブラン買うじゃんか!」
「それはそうだけど……。今は、ヨーグルトの甘いのが飲みたいのー! 甘いのがいいー! 甘いのーー!!」
やり取りを聞いている人たちは、「また始まったか」と特に注目せずに聞き流しているようだった。
私ものんびり眺めようと思い、学食で買ってきた温かいお茶のペットボトルを取り出した。
飲み口から湯気が出ているところを、フーフーとしながらゆっくりとすする。
なおも、二人の言い合いは続いていた。
女子側が栗味の飲むヨーグルトを、勢いよく前に差し出した。
紙パックの飲み物を強く握ってるから、こぼれないかこっちが不安になっちゃうよ。喧嘩も大概すればいいのに。
「それじゃあ、そっち頂戴よ。交換しよ。健司のやつは、通常版の飲むヨーグルトじゃん、ずるいよ!」
「いや、これは俺のだし。食後の一杯は、やっぱりこれだろ。それにお前の飲みかけじゃん。なんだかんだ半分くらい飲んでるし」
「いいよ。健司が半分飲んだら交換しようよ。二人で分け合ったら、二つ味わえて美味しくない?」
「そういうことなら、いいかもな。俺もちょっと飲んでみたかったし。栗味」
そう言うと、二人は自分が飲んでいた紙パックを相手に渡した。
そして、その場でチュウチユウと相手が飲んでいた紙パックの飲むヨーグルトを飲んでいった。
「これ、美味しいな! 栗味って、意外と旨いんだな。ハマるかも!」
「うんうん。けどやっぱり、なんといっても通常の味が美味しいよ。これを飲むと生き返るーって感じ!」
二人はお互いの顔を見合って笑いあっている。
「栗買ってきたの正解だったかもだよ、さすが健司!」
「だろ? 通常版と栗の組み合わせが最強かもな!」
「二人で分け合うって、なんかいいね!」
カップルは仲直りしたようだった。
正直な話、教室の中でイチャつかないでとは思う。
教室中の全員がそう思っていたはずだ。
毎度毎度のことながら、離れたりくっついたりしてる二人。
本当に別れてしまったら、それはそれでクラス中が心配するとは思う。
「また、これ買ってきて、分け合おう!」
「おう!」
そうはいっても。
二人の幸せそうなやり取りに、クラスは癒されるところもあるけどね。
二人の関係は磁石みたいだな。
くっついたり離れたり。
私は、意外と好きかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます