紅葉を見に行こうよう

 秋も始まるくらいの平日。

 私は彼と一緒に学校の帰り道を歩いていた。


 涼しい風が吹いてきて、なんだか気持ちが良い季節って感じだ。



 清々しい気分で歩いていると、彼がにやりと笑った。

 そうかと思うと、唐突に口を開いた。


「今週末、紅葉見に行こうよう」


 そんな言葉が来るとは思わず、私は一瞬戸惑ってしまった。


「……えっと。それってもしかして、ダジャレなの? そうだとしたら、つまらないんだけれども?」


 私の顔や口調も相当怖かったのだろう、怒ってはいないのだけれども、棘があるような言い方になってしまった。

 私が言った言葉に対して、彼は慌てて言い訳をし始めた。


「い、いや、単純にデートのお誘いなんだけれども……。そろそろ紅葉の季節かなーって……。風も涼しくなってきたし、ピクニックデートもいいかなーって思って……」


 彼が慌てているのを久しぶりに見たかもしれない。ちょっと楽しいな。


「どうかな……?」

「うーん……。」


 私がどう答えようか迷っていると、もっと慌てだしたようだった。

 私が断ることなんてあまりないし。もしかして、本当に私が怒ったと思っているのかな?


 なんだか彼の反応が楽しくなってきたので、私はこのスタイルを貫いて話してみようと思った。半分本音だけれども、半分はからかい。

 けどそれが悟られないように、少し強めに言ってみる。


「そのシャレ、友達だったら別にいいけど、彼氏から言われるのは、なんだか嫌だな」


「なんで彼氏だとハードル上がるわけ……? 友達みたいに、優しく接してくれてもいいんじゃないかな……?」


「まぁ、それも一理あるけど。だけど、彼氏にはカッコよくあって欲しい。つまらない親父ギャグなんて言って欲しくないな」



 私の言葉に、彼はハッとした顔をした。

 はは、痛烈に言い過ぎたかな?

 本当は、おやじギャグも好きだけどね。


「ごめん。もっとカッコよく言うよ……」


 彼は、背筋を整えて、真面目な顔をして私の方を見た。

 彼は、私よりも身長が高いから少しかがんでくれた。


 真面目な顔で見つめられると、私の方が照れちゃうよ……。

 どうしよう、目を逸らしたら負けな気がする。

 けど、私は今怒っているっていうことにしているから。このまま真面目な顔で耐えるしかない。


 そう思って、彼の顔を真剣な表情で見つめる。

 彼は一歩近づいてきて、私の方を掴んだ。少し強めの力で、私を離さないようにがっちりと。


「亜里沙。今週末、俺と……」


 そこまで言うと、言葉を区切って顔を近づけて来た。


「紅葉を見に行こうよう」

「……うん」


「よっしゃーー! オッケーもらったぜ!!」


 彼は無邪気に喜んでいた。


 結局は親父ギャグだけど、真っすぐ言われるとちょっとカッコいいかもな。


「紅葉を見に行こうよう、か。その親父ギャグ、好きかも」

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