接着剤

「プラモデル作ってるんた?」


 隣の席の佐藤くんは、放課後の教室でプラモデルを作っていた。いや、正確にはガンプラだ。ガンダムのプラモデルのことをガンプラと呼ぶのだと、この前真剣な顔で教えてくれた。


「まだ分かってくれないかな? プラモデルじゃなくて、ガンプラだよ。ガンダムのプラモデルは特別なんだ」


 佐藤くんはガンプラに対して並々ならぬ情熱を持っているらしい。彼の机の上には、細かいパーツが整然と並べられ、まるで小さな工場のようだった。私はその光景に圧倒されつつも、興味津々で彼の作業を見守っていた。


「それ、触ってもいい?」


 私は恐る恐る尋ねてみた。

 佐藤くんは一瞬ためらったが、やがてしぶしぶと頷いた。


「壊さないように気をつけてね」


 私はそっと手を伸ばし、ガンプラのパーツに触れた。その瞬間、パーツがカチッと音を立てて外れてしまった。私は驚いて手を引っ込め、佐藤くんの顔を見た。彼の表情は一瞬固まった。


「ごめんね、壊しちゃった。」


 私は素直に謝った。


 佐藤くんは微笑んで首を振った。


「大丈夫だよ。接着剤でくっつければ元通りになるから。元々壊れてたんだよ、それ」


 彼は引き出しから小さな接着剤のチューブを取り出し、丁寧にパーツをくっつけ始めた。その手つきはまるで魔法使いのようで、私はその様子に見入ってしまった。


「接着剤ってすごいね。こんなに簡単にくっつくんだ」


「うん、接着剤は便利だよ。壊れたものを元通りにする力があるんだ」


 その言葉に、私は何か温かいものを感じた。壊れたものが元通りになる。それはまるで、私たちの心も同じようにくっつくことができるというメッセージのように思えた。


 その後も、佐藤くんがガンプラを作るのを見ていた。真剣な表情や、細かい作業に没頭する姿。意外といいかもしれない。


 私は勇気を出して佐藤くんに言った。


「ねえ、佐藤くん。私もガンプラを作ってみたいんだけど、教えてくれないかな?」


 佐藤くんは驚いたように私を見つめたが、やがて優しく微笑んで頷いた。


「もちろんだよ。一緒に作ろう」


 佐藤くんは、まだ作っていなかったガンプラの箱を取り出すと私に渡してくてた。

 私たちは、放課後の教室でガンプラを作り続けた。接着剤でパーツをくっつけるたびに、私たちの心も少しずつ近づいていくような気がした。


「くっつくって、いいね」


「うん、くっつくっていいよね」


 なんのイベントも無い放課後。

 接着剤でくっついたガンプラのように、私たちの心も一つにくっついていく。そんな気がして、私は幸せな気持ちでいっぱいになった。


「接着剤っていいね。私好きだな」

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