月見うどん

 私の高校に学食がある。何棟か建っている校舎の間に位置しており、プレハブ小屋のようなたたずまいをしている。中はそこまで広くないのに、たまに混んだりすることもあるから厄介だったりする。


 その学食で、毎日安いカレーを食べている男子がいる。一人でいるのに、長机の真ん中の方に座っているのだ。端に座ればいいのに、周りには誰も座らないため、悠々と食べている姿がいつも見える。


 今日も学食に来てみると、その男子はカレーを食べていた。カレーは大盛りの皿に乗っており、モリモリと食べている姿が印象的だ。いつも大盛を食べるって、成長期の男子は食費が大変そうだなと思って横を通り過ぎる。

 食費が大変だから、大盛でも安いカレーを食べているかもしれないけれども、毎日カレーを食べて飽きないのかな?

 まぁ、そいつと話すことは無いんだけどね。


「おばちゃん、うどんお願いします」

「はい、今日もうどんだね」


「今日は月見でお願いします。そういう気分なので」

「あいよ!」


 かくいう私は、毎日うどんを食べる。

 うどんは作り終わるスピードが早い。一人で食べる私にとっては、好都合なのだ。すぐにうどんを受け取ると、席を探してふらふらと歩く。


 連休明けだからなのか、学食の中は混んでいた。空いてる席と言えば、カレー君の隣くらいしかないようだった。しょうがない。


 私は、カレー君の隣に座った。

 話したことは無いけれど、いつも見ている男子。せっかくなら、この機会に会話してみようと魔が差してしまった。

 月見うどんを食べられると思うと、少しテンションが上がってしまったのかもしれない。


「君、今日もカレーなんだね」

「そっちこそ、今日もうどんなんだね」


 カレー君は、私からの何気ない呼びかけに答えてくれた。いつも一人だから気難しいかと思っていたけれども、会話は意外とできそうで驚いた。

 続けてカレー君と会話しながら、食事を楽しもうと私も会話を続ける。


「うどんって言っても、いろんな種類があるんだよ? 今日は、月見うどんだし」

「カレーにも、種類があるぞ? 今日は月見カレーだし」


「へぇー。綺麗だね月」

「まぁな」


 うどんも奥が深いと思っているけれど、カレーも奥が深いのかもしれない。


 二人とも、特に楽しそうにするわけでもなく前を向いて食べている。

 ただの相席で食べているだけだけど、なんだか熟年夫婦感が出てしまっているかもしれないなと思った。


 今度はカレー君の方から話しかけてくる。


「俺はたまにしかトッピングつけないけどな。月見って美味いよな」

「私もたまにしかトッピングしないよ。月見うどんって美味しいよ」


 会話が止まっても、なんだか心地良い気がするのは不思議な気分だった。

 私からも、何気なく会話を振ってみたい気になった。


「月見うどんを食べるときって、私はご機嫌な日なんだ。私、月見うどんが好きなの。あなたは月見カレーが好きなのかしら?」

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