ワカメラーメン

 部活が終わった後の帰り道。

 日が落ちるのも早くなり、秋の風が涼しく感じる。

 帰るために駅へは向かわずに、そばにある塾へと足を進める。



 夏期講習で塾に入れられたと思ったら、そのまま継続して塾へ行かされることになってしまった。

 お母さんは、私が成績が上がったことが嬉しかったのだろう。すごく喜んでいた。


 夏期講習に行く前は、「塾は高いから、あまり行かせたくないんだけど……」って言って渋っていたのに。

 私は夏期講習だけのつもりだったけれども、結局塾通いが始まってしまった。



 塾に通い始めてから生活が変わった。

 塾に行く日は、行く日は帰りが遅くなってしまうため、夕ご飯は塾で済ませることになった。

 塾に着くと、授業が始まる前に簡単に腹ごしらえをするのだ。


 塾に備え付けられている自動販売機で、夕飯を買ったりする。

 隣にあるスーパーで買ってくる人もいるけれども、部活帰りは時短のため自動販売機で買うことが多くなった。



 そこで私が見つけたのが、ワカメラーメンという、カップ麺である。


 ワカメラーメンは、大量のワカメが入っているカップ麺だ。

 お湯を入れる前は少なく見えるけれども、乾燥しているワカメというのは大量に膨らむのだ。

 だから、お湯を入れてカップ麺が出来上がると、大量のワカメに埋め尽くされたラーメンが出来上がる。


 そのワカメがとっても美味しい。



 出来上がったカップ麺は、塾でできた友達と一緒になって食べる。


「あれー、和子かずこ。また、ワカメラーメン食べてるの?」

「うん、これすごい美味しいんだよ? 私、このワカメだけ食べて生きていきたいかもしれないよ」


「へぇー、そうなの? ワカメ大量に入り過ぎじゃない? なんか私だったら飽きちゃいそうだけどな」

「いやいやー。食べてみたらわかるよ。これは、ハマるって!」


 私が友達に、ワカメラーメンを布教していると、別の友達もご飯を食べに集まってきた。


「私も分かるよ。ワカメラーメンは美味しいよね。前、和子に勧められて食べてみたんだよ。すごい美味しかったよ!」

「おおー、食べてくれたの? ありがとうー! やっぱり美味しいよね!」


 友達は、おもむろにカップ麺を取り出した。

 ワカメラメンのパッケージに見えるけれども、なにかが違うように見えた次回世界ワカメラーメンっぽいけど、それなに?」

「ふふふ。私は見つけてしまったのです。ワカメラーメンに進化系があったのです!」


「ど、どいううこと?」

「じゃじゃーん! ワカメラーメン、ワカメ増量、麺無しバージョンですっ!!」


「なにそれーーー!!」

「ワカメが大量に食べられるのです!! 隣のスーパーに売ってたんだよ!」


「いいな。私、明日食べてみよう!」



 そんな断章をしながら、塾で夕飯を食べた。

 私は塾に通い始めて、良かったと思う。


 楽しく話せる友達ができたのも良かったことだけど、ワカメラーメンという存在を知れたことが何より嬉しかった。

 私、ワカメラーメンが好き。

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