乙女ゲーム

 昼下がりの授業は、眠くなるのが常です。

 そんなときには、目を覚ますような強烈な刺激を脳に与えることで、脳を覚醒させる必要がありそうだね。


 先生が黒板に書いている隙に鞄に手を入れる。

 授業中だけれども、スマホを取り出して机の下でスマホをつける。


 スマホの画面には、カッコいい二次元のキャラクターが映っている。これが私の脳を覚醒させるの。


「……ゼフィルカッコいいよ、ゼフィル」


 名前はゼフィル。銀髪のカッコいいキャラクター。私が毎日眺めて、話しかけているキャラ。

 私の声が音声認識され、ロックが外れるという仕組み。

 ロックが外れる画面には、ゼフィルは笑った画像になるの。


 だから、私の声に反応したみたいになる。


 これを考えた時、私は自分のことが天才だと思った。

 思いついた日に、この仕組みをスマホに入れて、そこからずっと毎日話しかけている。


「あぁ、今日も笑ってくれた。私、これで頑張れる」



 自分で作った仕組みの通り、スマホのロックが外れる。

 そうすると、やりかけだったゲームが途中から開始されてしまった。


「えー、そうなの? 美穂みほ、マジかよ、うける!」



 あ、やりかけの乙女ゲームのセリフが再生されてしまった。

 乙女ゲームって、基本的に自分の名前を入れる派だから、私の名前が読みあげられているし……。

 これは、終わった……。


 静かな授業中に、乙女ゲームが起動してしまうとは……。



 古来より、乙女ゲームとは一人でこっそりやるもの。誰もいないところで、画面の中のキャラクターに話しかけたりして会話を楽しんだりして。

 それで、画面の中のキャラクターと一緒に照れ合ったりして。

 恥ずかしさも共有できて。


「こんなゲームを作ってくれた人は、神様か何かかな」って思いながら制作スタッフたちにファンレターを書くっていう。




 そんな乙女ゲームを、授業中にしてしまうとは、なんたる不覚……。

 周りのみんなは、私の方を見つめていた。先生も声に気付いたようでこちらを向いている。


 こうなってしまったら、白状するしかないな。

 潔くして、孤高の存在になろう。

 さよなら、私の高校ライフ……。



 そう思っていると、先に先生から声を掛けられた。


「授業中に電話してるのか? 授業に集中しろー。次やったらスマホ没収するぞ?」

「え、あ、はい! すいません、気をつけます!」


 流れでそう答えるしかなかったけれども。

 先生は、さっきの声が電話だと思ったってこと?

 それなら、セーフなのかもしれない。


 周りのみんなの視線も黒板の方に戻った。ただの電話だと思ってくれたようだった。

 あぶない、あぶない……。


 私が乙女ゲームを大好きなのがバレなくて済んだ。

 これが没収されちゃうと、私生きていけないからね。

 よかった。


 最後にスマホのロック画面を覗いてから、カバンに戻した。

 元々の目論見とは違っているけれども、すっかり目が覚めていた。


 私、やっぱり乙女ゲームが好きだな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る