秋の夕焼け

「あれ、財布が無い? 落としたかも……?」

「えぇーーっ! 財布を落としたのっ!?」


 クレープ屋さんに並んでいるときに、友達の朱美あけみが財布が無いと言い出した。動揺してしまったのは、朱美あけみの方よりも私の方だった。大声で答えてしまっていた。



「さっきまであったと思ったんだけどな……。やばい、どうしよ……」

「とりあえず探そう!」


 落とした張本人の朱美あけみよりも、私の方が慌ててしまっている。

 朱美あけみには自分のカバンの中をもう一度見てもらう。けれども、隅から隅まで見てもらっても、やはりなかった。


 まさか私が持っているわけも無いけれども、私のカバンの中もごそごそと探してみた。やはり、あるわけはなかった。


「うーん、しょうがないか。推しの写真とか入れてて、大事な財布だったんだけどな。あーあー……」


 なんだか朱美あけみはのんびりとしているのか、あきらめムードになっていた。私の方が真剣になって考えてしまっている。


「まだ諦めるのは早いよ。ここに来るまでの道で落としたのかもしれないし。早く探しに行こう。本当になくなっちゃうかもしれないよ!」

「けど、クレープ食べてからでも良くない? もうないかもしれないし」



「まだそんなこと言ってるの! 財布って大事だよ。お金だって、朱美あけみが一生懸命バイトして稼いだお金でしょ? 推しの写真だってあるって言ったし、他にも思い出が詰まってるんじゃないの!」

「まぁ、そうかもしれないけれども……」


「もう、クレープなんていつだって食べれるんだから、行くよ!」


 私が一生懸命訴えても、全然真剣に考えてくれない。

 私は、朱美あけみの手を取って、クレープ屋さんの列を飛び出した。


「探しに行こう! こっちから来たよね?」

「もう、沙織さおりはせっかちだなー……。そっちから来たけど……」


「よし。じゃあ行こう。私、朱美あけみがバイト頑張っ足りしているの知ってるから、どうにか見つけてあげたいの!」

「……ありがと」



 そう言って勢いよく歩き出したものの、すぐには見つからなかった。

 学校からの帰り道を戻って、また学校の方まで歩いてきた。

 どこにも見当たらなかったので、校内に入って私たちの教室のところまで戻ってきていた。


「もしかして、机の中に忘れてきちゃったりした?」

「うーん、そうかも?」


 朱美あけみに机を見てもらうと、私の予想は当たったようで財布が出てきた。


「あったーーー!」

「よかったーー! 私の財布ー!」


 朱美あけみも嬉しそうだったけど、私の方が喜んでしまっていたかもしれない。


沙織さおり、ありがと。こんなに一生懸命探してくれる友達なんて、今までいなかったかも」

「ふふ、どういたしまして。あってなによりです」


「じゃあ、またクレープ屋さんにでも行こうか」


 私と朱美あけみは、再度学校を後にした。



 一生懸命財布を探していたら、気付けば夕方になっていて夕焼けが眩しかった。

 涼しい風が吹き抜ける。


「なんだか、もう秋だね」

「そうだね、夕焼けが綺麗だね」



 私と朱美あけみはどちらともなく、手をつないでいた。


「私、秋の夕焼けって好きなんだ。朱美あけみと一緒に見れて嬉しいよ!」

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