彼岸デート

 山道を歩く。

 木陰を歩いているというのに、前から吹いてくる風から夏の暑さを感じる。


 木陰から日向に出ると、肌がじりじり焼ける気がした。

 この後の道は、木陰が無いのが見えたため、私は日傘を開いた。


 傘を開き終わると、再度彼と手をつなぎ直す。



「なんで、こんなところを散歩しようとしてたんだっけ?」

「いいじゃん、今日はお彼岸だよ? お墓の周りを散歩するっていうデートもありじゃない?」


「その感覚がイマイチ理解しが無いんだよな。一般的には『無し』だと思うんだけどな」

「けど、彰彦くん的には、『あり』でしょ?」


「まぁ、散歩だったら俺はどこでも楽しめる派だけども」

「なら、よし!」



 半ば強引に、私が彰彦くんを連れまわしている。

 それが彼女の特権ってやつだと思うんだ。わがままを聞いてくれるのが、彼氏の役割。


 きっとこの先、どこかでフラれちゃうだろうから、今のうちに好きなだけ甘えておこうと思ってる。



「日傘差すなら、俺も入れてくれない?」

「やだよー。近づいたら熱いじゃん。せっかく涼を得たのに、日傘の中も熱かったらどうしようもなくない?」


「持ってやるから」


 そういって、少し強引気味に日傘を奪い取られた。

 なんとなく、私と彰彦くんは似ているところがあると思う。

 考え方が単純なところとか、少し強引な性格とか。


 この先もずっと一緒にいられたらなって思うけども。

 季節が変わると、段々と気持ちが変わってしまうのかなって不安になってくる。


 日傘話を奪われて、少し暑くなることを覚悟していたのに、一向に暑くならなかった。

 少し上を見上げると、しっかりと私に日傘がかかっている。

 隣の彰彦くんには、全然かかっていないようだった。


「えっと、せっかく私から日傘を奪い取ったなら、もう少し被ればいいじゃん。私の方ばかりに傘を差して」

「うん? 俺の勝手じゃない? ちゃんと俺の手とか入ってるし。もっと近寄れば一緒に入れるけどな」


「……近寄ればいいじゃん。私が悪い人に見えるから、近づきなよ」


 そう言うと、恐る恐る近づいてくる彰彦くん。

 優しさからなのか、肌は触れ合わないくらいにしか近づいてこない。


「ばか、もっと近寄れっていうの!」


 そう言いながら、私の方から近づいて、彰彦くんと腕を絡めた。



「な、なんだよ、暑いだろ……?」

「日傘のおかげで涼しいですけど?」


「ならいいか」


 そのままお互いに意地を張って、腕を組みながら歩く。

 正直に言うと暑いんだけれども、嫌な暑さじゃなくて心地良い暖かさ。


「お墓ってさ、家族が一緒に入るんでしょ?」

「そうだな。墓石の下に骨壺があって、その中に何個か骨壺があって」


「一緒のお墓に入れたら、幸せだろうね」

「墓は日陰が良いかもな。お前暑がりだから」


 彼岸にいるのは、家族連れだけ。

 カップルなんていない中で、しっとりとイチャイチャする。

 そんな彼岸デート。


 好きだな。

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