シュライヒフィギュア

 文化祭の出し物を決めるのは、クラスの生徒たちが主体で決める。そこに、学校側の意見は入らない。先生の助言はあるものの、最終的には生徒が決める。

 これは、民主主義の考えを反映したものだと思う。


 生徒たちで、出し物の候補となる案を上げて、それに投票をする。

 投票をするのも、みんな平等に一票を持っている。いかにも平等だと思う。



 挙げられた案は複数あって、どれも楽しそうだったけれども、人の趣味というのは偏るもの。

 というか、意見というのは人によって偏る。


 メイド喫茶、映画撮影、かき氷屋。


 色々と案が上がっていたけれども、選ばれたのは『電車喫茶』だった。


 誰が思いついたかって言ったら、その界隈に詳しい男子たちだった。

 私は、そこで社会の仕組みを知った気がする。


 多数決で決めるというのは平等とは思いつつ、同じ考えの人間が多くいれば、その意見が通るのだ。

 電車喫茶を推していた男子たちだけが喜んでいて、他の生徒たちは意気消沈。



 当たり前だけれども、これが社会というもの。


 そして、一度決まってしまえば、気が乗らなくてもクラスみんなで文化祭に向けて準備をするのだ。


 ウェイトレスは、車掌さんの格好をしたりする。その衣装の準備をする人。

 机も椅子も、4人ボックス席なんかにして、電車の中のような飾りつけをする。その装飾の準備をする人。

 教室内には、電車のおもちゃのレールをつなぎ合わせて、教室を一周させる。その準をする人。


 それぞれのチームに分かれて準備を進める。

 なんにでも楽しみを見いだせたら、どんなにいいことか。

 社会人になるっていうのは、こういうことかもしれないな。


 さすがに黙々と準備をするのは気が滅入ってしまうので、友達の和子かずこと話ながら準備を進める。


「電車喫茶ってさ、なんだろうね。和子って電車好き?」

「ううん、そんなに好きじゃないよー?」


 あっけらかんと、明るく答えてくれる和子。ストレートな性格が気持ちいい。


「だよねー。男子って、なんで電車好きなのかなー。電車好きじゃない人の方が多いと思うのにね」

「うんうん!」


 私がやる気無さそうに話しているのに対して、なんだか和子は楽しそうに返事をしてくる。

 少し気になったので、和子の方をちらりと見ると、電車の線路のわきになにやら動物のフィギュアを並べている。


 結構リアルな感じのフィギュア。

 それも、種類が豊富。


「和子、なにそれ……?」

「ふふふ、これ? 遊び心!」


「いやいや、そういう答えを期待してたんじゃないのよ。電車のレールじゃなくて、なにを並べてるの? レールの周りに動物たち!? そんなフィギュアどこかにあったっけ?」

「これ、私の私物だよー! 可愛いでしょ?」


「えーーー! 私物! しかも、こんなにいっぱい?!」

「これね、シュライヒフィギュアっていうんだ。私好きなんだー。電車からこの子たち見えると、テンション上がると思ってね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る