シルバーシート

 今日は待ちに待ったライブの日だった。

 なんにも前から楽しみにしてたんだ。


 友達と一緒に、普段は行かない遠くの会場まで電車で向かった。ドームと言いながら壁がないんだよね。

 初めて行ったからびっくりしたけれども、ライブは最高だった。


 大好きなアイドルのステージを間近で見られて、とても心踊った。いつも、ライブビューイングで見ていたんだけれども、生で見るのは全然違って、熱気が凄かった。


 ライブが終わった後も、その興奮は冷めやらず、いた。

 友達とは帰り道は別だったから、途中で別れてしまったけれども、ライブの感想をメールで言い合っていた。



 帰りの電車に乗ると、行きとは違って少しだけ空いていた。行きはぎゅうぎゅう詰めで、立っているのも大変だったけど、帰りは少し楽だった。


 とはいえ、座れる席はシルバーシートだけだった。立っているのも疲れたので、思い切って私は座ることにした。さすがに家まで立って乗るにしては、遠いしね。



 電車が進むにつれて、段々と車内が混んできた。私はスマホをいじりながら、ライブの余韻に浸っていた。ふと顔を上げると、おばあさんが立っているのに気づいた。おばあさんは疲れた様子で、手すりにしがみついていた。


 ちょっとだけ考えてしまったが、私はすぐに立ち上がった。


「どうぞ、座ってください」


 おばあさんは驚いたような顔をしてから、にっこりと笑った。


「ありがとうね。助かるよ」


 おばあさんの笑顔はとても温かく、心がほっこりした。


 おばあさんが座った後、私は立ちながら窓の外を眺めた。夜の街並みが流れていくのを見ていると、今日のライブのことや、友達との楽しい時間が思い出された。疲れていたけど、おばあさんに席を譲ったことで、なんだか心が軽くなった気がした。


 シルバーシートって、普段はあまり意識しないけど、こうやって誰かに譲ることで、自分も少し優しくなれる気がする。大したことは無い、本当に些細なことなんだけれども、なんとなく気分は良かった。

 ライブも楽しかったし、こういう日には気分良く帰りたいもんね。私は次の駅で降りる準備をした。


 電車が次の駅に着くところで、おばあさんがもう一度「ありがとう」と言ってくれた。


 その言葉が、今日一日の締めくくりとして、とても心に染み渡った。シルバーシートって、ただの席じゃないんだな。誰かを思いやる気持ちを育む、大切な場所なんだね。


「気にしないで下さい。お互いに気持ちよく過ごせることが一番大事だと思います!」


 私は笑顔でそう返すと、電車を降りた。


 シルバーシートを譲るってだけだけど、こんなに清々しい気分になれるんだね。

 これからも、シルバーシートに座るときは、周りの人に気を配りながら、優しい気持ちを忘れずにいたいな。


 シルバーシートって、なんだか好きかもな。

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