ドンキホーテ
夜の23時を過ぎた頃、お風呂の片隅で空になったシャンプーボトルを見つめていた。
髪を洗えないなんて考えられない。だけど、こんな時間に開いているお店なんて、ドンキホーテくらいしかない。少し怖いイメージがあるけど、行くしかない。
「しょうがない!」
自分に言い聞かせて、パーカーを羽織り、財布をポケットに突っ込んで家を出た。夜はまだまだ暑さが残っていた。
今の時間にやってて、一番近いのがドンキホーテ。
ここに深夜に来ると思うと、かなり怖いけれども、背に腹はかえられないよね。
明るいネオンの中を入っていく。
店内に入ると、独特の匂いと賑やかな音楽が迎えてくれた。商品がぎっしりと並んでいて、どこに何があるのか分からない。
シャンプー売り場を探して歩き回っていると、ふと目に入ったのは、派手な髪色とピアスが目立つヤンキー風の女の子だった。彼女もシャンプーを手に取って、真剣な表情で成分表を見ている。
こういうのがあるから、あんまり来たくなかったんだよなぁ……。怖いなぁ……。
そう思ってると、ヤンキーの方から話しかけてきた。
「すみません、店員さんー。シャンプー売り場ってここだけですよねー?」
「あ、あの、私は店員じゃないです……」
彼女は驚いたように顔を上げ、そしてにっこりと笑った。
「あぁ、私の勘違いか。ごめんごめん。じゃあ、あんたでいいや。シャンプーどれがいいか迷っててさー、どれがいいかな?」
いつもは無視して逃げちゃうけども、彼女の笑顔に、少し安心しできたので答えた。
「えっと……。どんなシャンプー探してるんですか?」
「普段使ってるのがなくてさ、何かおすすめがあれば教えてほしい」
私もそんなに詳しくないですけども……。これ、結構いいよ。私も使ってるんだけど、髪がサラサラになるし、香りもいいんだ」
私は一本のシャンプーを手渡してくれた。
「ありがとう」
彼女はお礼を言うと、シャンプーをカゴに入れた。
「これで、私も良い匂いだね! せっかくだから、あんたの分も買ってあげようか?」
「い、いや、私はもうちょっと安いのを使ってて……」
「いーから、いーから! 教えてくれたお礼だよ!」
そう言われたら引き下がるのも難しい
彼女に言われるまま、一緒にレジに向かう。
「まだ高校生だったの? 私と同じで社会人かと思ったのに」
「お、お姉さんは、社会人なんですか? 若く見える……」
「はは、ありがと。私、こう見えて30歳だよ」
「えぇーーー! 全然見えないです!」
レジに行く途中で、お姉さんのことを色々聞いた。代わりに私の話も色々した。
学校のこと、友達のこと、好きな音楽のこと。彼女は見た目とは違って、とても優しくて話しやすい人だった。
「ドンキホーテって、ちょっと怖いイメージがあったけど、来てよかったかも」
「ははは。話してみないとわからなかったり、一歩踏み出さないと、わからないこともあるからね。ドンキホーテって、いいだろ? 私好きなんだ!」
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