クロスワード
高校二年生が昼休みにするっていうと、なんだと思うか。
私だったら、友達としゃべってたら終わる。
それが普通だと思ってたけれども、昼休みの教室でクロスワードパズルに夢中になっている眼鏡君と出会った。
彼の名前は田中君。クラスメイトだけど、あまり話したことはない。いつも本を読んでいるか、何かに集中しているし、友達と話してるところとか見た事ない。
私は友達とおしゃべりしに行こうと思って席を立ったところで、ふと教室の隅で一人クロスワードパズルに取り組んでいる田中君の姿が目に入った。
田中君の眉間には深いしわが寄っていて、何かに困っているようだった。その表情を見ると、声をかけずにはいられなかった。
「ねえ、田中君、何か困ってるの?」
田中君は驚いたように顔を上げ、眼鏡の奥の目が一瞬大きく見開かれた。
「あ、うん。ちょっとこのクロスワードが難しくて……」
私は、クロスワードの紙を覗き込んだ。
「どれどれ、どんな問題?」
「ここ、四文字で『夏の風物詩』っていうヒントなんだけど、全然わからなくて……」
私は少し考えてから答えた。
「それって、『打上花火』じゃない?」
田中君の顔がぱっと明るくなった。
「いや、それはさっき考えた気がする……けど、あれ? 上手くハマりそうだ! ありがとう!」
「良いってことよ! ははは!」
「山本さんって、クロスワード上手いんですね!」
なんだか、誰かの役に立てたことに小さな喜びを感じた。普段はあまり意識しないけれど、人の役に立つって、意外と嬉しいものなんだな……。
「じゃあさ、ここも手伝ってくれる?」
「まぁ、いいよ!」
私は笑顔で答えた。
そして、田中君の隣の席に腰掛けて、じっくり考えることにした。
「じゃあ、これはどうかな。『秋の味覚』、五文字」
私は少し考えてから答えた。
「うーん。ここの漢字と合わせると……、『秋刀魚定食』じゃない?」
田中君は、またもや嬉しそうに頷いた。
「そうだね、ありがとう!」
「ふふふー! 私に、任せなさいな!」
「じゃあ、じゃあ、こことか!」
「ふむふむ! ちょっと、田中君の案とかを聞かせてよ!」
「色々考えてみたよ、『冬に使う家具』だから……。うーん、なんだろう?」
「田中君、もしかして、あんまり上手くないの?」
「はは。君のおかげで、クロスワードがもっと楽しくなったよ。本当にありがとう!」
「どっちかっていうと、私の方が得意なんじゃないのかな? 実は私さ、小さいころからクロスワード好きなんだよね。やりかけちゃったから、一緒に完成させちゃお!」
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