2024年9月

バーニャカウダ

「バーニャカウダー……?」


 オシャレなお店の中ですっとんきょうな声を出すものだから、周りのお客さんから変な目で見られてしまった。視線を集めてしまったことが恥ずかしくて、メニューで顔を隠す。


 私と友達の美幸みゆきは、鎌倉野菜が食べれるお店に来ている。鎌倉駅からお店がいっぱい並ぶ小町通というところを歩いていき、少し小道に曲がったところにあるお店だ。


 美幸が美味しいお店だというから、私も付いてきたけれども。

 美幸はセンスが良すぎてしまい、オシャレさが私の想像の遥か上を行っていた。


 メニューを見たら、知らない単語ばかりだし。

 写真も付いていないメニューなんて、私見たこと無いし。


 このうちの、どれを頼んだとしても、その正体を知らないから、今の私は騙され放題だよ。

 バーニャカウダーっていう野菜なのか、料理なのか、なんなのか。

 けど、唯一聞いたことあるのが、この名前だった。


「私、バーニャカウダーって知らない、あんまり知らないんだよね……、ははは」


 頭をポリポリかきながら言い訳をしていると、美幸は笑って答えてくれた。



「大丈夫だよ、私もこのお店で初めて食べた料理だからさ。けどね、ここのお店で私はハマったからさ、美味しいから食べてみて」


 美幸がそう言うなら美味しいのだろう。美幸の美的センスと、味覚センスは抜群だから。

 あえていえば、好きな男の子のセンスだけは、直したほうが良いとは思うけれども。面と向かっては言えないけどね。


 美幸にどう伝えたものか言葉を選んでいると、美幸は店員さんを呼んでくれた。


「すいませーん! 注文良いですかー?」

「はい、只今伺います」


 行動力もある。

 本当、良い彼氏を捕まえて欲しいものだよ。


 テーブルまで店員さんが来てくれた。

 歩調に合わせて、清楚な感じのショートヘアがサラサラ揺れて、良い匂いがしてきそう。

 店員さんが止まると、髪はきっちりまとまって止まった。


 そんなお店の雰囲気一つ一つに目を取られてしまっていたが、美幸は慣れた感じで楽しそうに口を開いた。


「鎌倉野菜のアヒージョを一つお願いします」

「はい、かしこまりました」


 店員さんと美幸は、私の番だという感じでこちらを見つめてくる。

 そうだよね。私の注文の番だね。


「バーカ、ニャウダーを一つ下さい」


 ……あ、やばい。嚙んじゃった。

 初めて言う単語だし、なんか綺麗な二人に見つめられると、緊張しちゃうし。



「はい、かしこまりました。で承ります」


 店員さんは、優しく微笑むとカウンターの奥へと行ってしまった。

 なんだか恥ずかしい。うぅー……。


「そういうこともあるよ、大丈夫。ふふ。きっと気に入ると思うよ」

「バーニャカウダ。こんな良いお店で食べたら、一瞬で好きになりそうかもだよ」

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