男はつらいよ
道徳の授業の一つに、視聴覚室で映画を見るという授業がある。
道徳の授業って、そもそも何を学ぶ授業なのか、よくわからないんだよね。
私的には、勉強の合間の休憩時間だと思っちゃっている。
授業で映画を見るっていうのは、先生の自己満足的なところもあるらしくて、隣のクラスはハリウッドのアクション映画を見ていたって聞いた。
その映画を見ることによって、ヒー口ーも苦悩しているとか、悪も味方を変えれば悪くないかもしれないとか。そういうものを学べるらしい。
隣のクラスの先生は、若くて熱い先生だからね。多分そういう映画が好きなんだろうな。隣のクラスの友達から聞いたけれども、結論としては、すごい面白かったらしい。
熱い先生だから、映画を見ながら補足情報も言ったりしてくれたらしくて、より深く映画を理解できたと言ってた。
それで、もっとそのシリーズの映画を見てみたくなったらしい。
単純なんだからって思うけれども。
もし私がその場にいたとしたら、同じ状況になっていたと思う。
私も、映画自体は好きだからね。
一方で、うちのクラスの先生は少し歳をとった、白髪交じりのおじいちゃんっていう感じの先生。
そんな先生が選んだのは、日本の古い映画『男はつらいよ』っていう映画だった。
うちのクラスもハリウッド映画を期待していたけれども、しょうがないか。
うちの先生らしいよね。
どちらにしても、勉強の合間に見れるっていうのは、私的には助かるし。
映画が始まると、古い音楽が流れて来た。どこか懐かしいような、昔聞いたこともあるような曲。
この映画で使われている曲だったんだね。
そんな音楽がきっかけで、ちょっと中身が気になってしまったので見始めたけれど、周りは寝てる人も多かった。
見るのも見ないのも自由だと思うけれども、見もしないで「面白くない」なんて、私は言いたくないからね。
そもそも、先生が選んだ映画だから、なにかしら面白い所があるんだろうなって。
「この映画知ってる人いるか?」
先生の質問に対して、誰も手を挙げなかった。寝てる人も多いからか、反応しているのかもわからない。
「まぁいいか。この映画はな、先生にとっては青春なんだ」
誰も聞いていなくとも、先生は語り始めた。
「この映画の主人公の寅次郎がな、旅をした先で恋に落ちていくんだ。出会いがあって、別れがあって。悲しいことがあっても、笑って生きてる」
ふと、先生と目が合ってしまった。語っている先生と目が合うのって、なんだか恥ずかしいな……。
「いつか、田中にもわかる時が来ると思うぞ」
名指しで呼ばれてしまったけれども、私以外に誰も気づいていないようだった。
先生は、私しか見ていないようだった。
それなら、答えるしかないか……。
「私にも、わかるんですか?」
「とりあえず最後まで見てみるといいぞ。気に入ると思う」
優しい先生の口調に、私は自然と頷いていた。
「『男はつらいよ』って、女子にも好きになれるのかな? とりあえず見てみます」
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