サマークリスマス

 夏休みには、登校日というものがある。

 登校日ってすごく面倒くさく感じちゃうけれども、登校日を休んでしまったら、欠席扱いになっちゃうらしい。なので、しょうがなく学校に来た。


 クラスメイトは、しっかり全員揃っているようだ。けど、みんな気だるそうな顔をしている。多分私も同じ顔をしていることだろう。


 隣の席の彩奈あやなが声をかけてきた。


「久しぶりだね、元気してた?」

「元気だったよー。彩奈彩奈は元気してた?」


「もちろん!」


 クラスの中でも、彩奈だけは元気そうに見えた。登校日なんて面倒くさいのに、何でこんな日でも元気なのか気になったので聞いてみた。


「やっぱりさ、なんと言うかね。好きな人に会えるって思うと、勝手に気力が湧いてくるっていうかさ?」

「えっ! なにそれっ!? それって、このクラスの中に好きな人がいるみたいな言い方してるよ!」


「しーーーっ!! 声ででかいよ、弘子ひろこは!」


 慌てる彩奈に口を塞がれた。そして、彩奈は周りをキョロキョロと見まわしている。私も一緒に周りを見るけれども、誰も私たちの話を気にしていないようだった。

 寝ている人やら、スマホをいじっている人。みんな夏休みの家の過ごし方を引きずっているようだった。

 周りにバレていないことを確認すると、彩奈は私の口から手をどけてくれた。


「もう、大きい声出さないでよね。まだ誰にも言ってないんだから!」

「そうだったのね。ごめんごめん。けど、いきなり過ぎるよ、そんなこと言うなんて」


「正式に付き合ったら、弘子にも言うからさ。もうちょっと待っててね!」

「うぃっす。了解。けど、焦って失敗しないでよ? 彩奈って、結構突っ走っちゃうから不安だよ」


「大丈夫、大丈夫! 今回はすごい良い感じなんだよ。どっちかっていうと、彼の方から迫ってしてる気がするんだよ」

「そんなことってある? 彩奈っていつも追いかける方なのに?」


 そんなことを小声で話していると、私たちの席に近づいてくる人影があった。確か鈴木って名前の男子。運動部に入ってだと思うんだけど、夏休みでかなり肌が焼けていた。

 私たちの目の前で止まると、口を開いた。


「彩奈、これやるよ。受け取って」


 素っ気ない言い方をして、鈴木くんは彩奈に紙袋を渡してきた。

 彩奈は嬉しそうな顔をして、こくこくと頷いていた。彩奈の顔は、なんだか普段は見ないような恋する乙女みたいな顔しているようだった。


 ……あれ? もしかして、さっき言ってた相手って、鈴木くんなのかな?


 彩奈の方からお礼を言った。


「ありがとう。嬉しい。けど、今日って、なにかの記念日でも無いのにくれるの?」

「今日は、サマークリスマスって日なんだ。夏のクリスマスの日。そんな日だがら、別にプレゼントあげてもいいだろ」


 鈴木くんが渡した袋の中身を確認する彩奈。中から出てのは、小さなくまが着いたキーホルダーだった。


「ありがとう! これすっごく可愛いよ!」


 彩奈の返事を聞いた鈴木くんは、照れて顔を赤くしていた。


「登校日と重なってて良かったよ。メリーサマークリスマス。俺、好きなんだ、クリスマスって」

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