ハイエイトチョコ

 私には子供っぽい遊びをしたがる彼氏がいる。

 顔はカッコイイの。身長も高くて、優しくて。勉強も出来て。

 そういった部分は非の打ち所がない彼氏。


 ただ一つ欠点がある。

 子供っぽい遊びをしたがるというところだ。

 それさえなければ、完璧なのに……。



 今日は、塾に自習しに来ている。

 二人で各々勉強してるところまでは良かったんだ。

 けど、勉強の合間の休憩で、おやつを食べようと言ってきたところから、嫌な予感がして……。

 案の定、嫌な予感は的中した。


 優希くんは、鞄から出したハイエイトチョコを出した。

 八の字型にマーブルチョコが入ってるお菓子。形が可愛いから、小さい頃好きだったけれども。

 ちょっとコスパが悪いかもなーと、高校生になってから買わないことが多かった。


 優希くんは、取り出したハイエイトチョコに輪ゴムをつけて、メガネみたいにした。とても楽しそうに、ニコニコしながら。カッコイイんだけど、やってることが子供なんだよな……。

 輪ゴムをつけ終わると、躊躇無く、そのメガネを掛けた。



「ジャーーン! どう? カッコイイ?」

「え、えーっと……、カッコイイかな……?」


「だよね! これカッコイイって思うんだ! 美緒の分もちゃんと持ってきたから、つけてつけて!」


 そう言うと、優希くんはハイエイトチョコをもう一つ取り出して、渡してくる。「絶対にヤダ」なんて思ってても言えないな……。しぶしぶ受け取ろうとすると、優希くんは自分が掛けてたハイエイトチョコを外して、私に渡してきた。


「そうだった、輪ゴムは一セットしかないから、俺ぎ掛けてたヤツで 楽しんでみて?」



 優希くんは、ウキウキした顔で見つめてくる。この顔はよく見るんだ……。この顔をした時は、私が提案を飲み込むまで、絶対にグダグダ言ってくるパターン……。


「分かったよ、やってみるね……?」


 受け取ったハイエイトチョコを、メガネみたいに掛ける。目の間の距離って、意外と子供の頃と変わってないようで、ちゃんと前が見える。


 前を向くと、優希くんがすごい真面目にこっちを見てきていた。じーっと私のことを見つめてくる。こんなに見つめあったことって、今まで無いかも……?


「美緒ってさ、やっぱり可愛いね」

「え、え、えっと、いきなりなに言うの……?」


 優希くんが、すごく顔を近づけてくる。やだ……。ハイエイトチョコをつけた状態でファーストしちゃうのかな……?

 こんな格好でキスなんて、絶対にいやだよ……。けど、拒みたくない自分もいなくもないかも……。


 私は、覚悟を決めて、目をつぶる。


「ふふ、僕のものだよ」



 カッコイイセリフと共に、私の耳からゴムを取って、ハイエイトチョコを外された。ちゃんと、取ってからキスしてくれる気だ。やっぱり、そういう気遣いをしてくれるの、嬉しいな……。

 いつ来るのか、目をつぶって待っているが一向に、唇は来なかった。


「美緒、目を開けてよ?」

「う、うん。目を開けていいの……?」


 目を開けると、優希くんはハイエイトチョコのメガネを掛けていた。


「やっぱりこれは、僕のものだよ! これがあると楽しい気分になるからね!」

「……うん、やっぱり優希くんは、いつも通りだよ。期待するのは、やめとくよ。私もハイエイトチョコ好きだから、一個ちょうだい」

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