電子コミック

 塾って、学校と違って友達ができない。


「高校一年生の夏ってそんなに勉強必要なの?」ってお母さんに抗議したんだよ。

 けど、「いいから行っておきなさい!」って無理やり突っ込まれたんだよ。


 もしかしたら、そんな子が多いのかもしれない。

 授業中は私語厳禁。そのルールが守られてしゃべる人は誰もいない。学校だったら、少しくらいおしゃべりするものなんだけどね。


 塾講師の授業は、淡々と進められていく。

 学校の先生と違って、試験ではどこが出やすいかっていうところをストレートに教えてくれて、要点がまとまっている。


 集中して聞いていると、終業のチャイムが鳴った。

 ちょうど今日の範囲が終わったらしく、講師も説明を終えた。


「はい。それでは、本日はここまでです」


 講師はそう言うと、ベルトコンベアーが動くようにスーッと教室を出ていった。


 授業後の生徒たちも、特に周りと話すことなく教室を後にしていく。みんなそれぞれ個人で行動しているみたい。私も一人で教室を後にした。

 塾も学校と同じで、授業ごとに教室が違っている。夏期講習だろうと、それは同じこと。

 私は次の授業がある教室を目指した。



 次の授業の教室に入ると、人が多くて空いている席が少なかった。しょうがないので、誰かの隣に座るしかない。

 結局、誰とも話さないから、どこの席に座っても良いけれど。

 見知った女の子の顔が見えた。その子に気を取られていたら、吸い寄せられるようにその子の隣の席へと座ってしまった。

 特に何を期待していたわけじゃないけれどもね。


 名前も知らない女の子だけど、毎日会っている子。

 席に座ると、こちらに気づいたのか会釈をしてきた。私も会釈し返す。



 夏期講習で毎日会うことがあっても、友達になるってことはなかなかない。

 相手に対して、悪い印象はなくとも、近づくことも無く一定の距離を保つようになる。

 こうやって大人になって、友達っていう存在が減っていくのかな。


 そういうものだよね。

 私も大人の仲間入りかもな。

 そう思いながら、いつも通りスマホで暇つぶしの電子コミックを読む。


 いつもと違ったのはその後だった。

 隣の子が、なんだか興味あり気にこちらに顔を近づけてくると、話しかけてきた。


「電子コミックですか? 何が好きなんですか?」


 突然話しかけられたものだから、慌てて画面を消してしまった。

 別にやましい者なんて呼んでいなかったけれども。


「あ、えっと、異世界転生する話が面白いなって……」

「そうですの! 私と同じですね。私もですね、異世界ファンタジーが好きでですね」


 今まで話したことなかったけれども、電子コミックがそんなに好きだったんだろうか。

 私が色々答える前に、語ってくれた。その中に、私が今読んでいたコミックも入っていた。


「あ、それ知ってます! 私もちょうど今読んでましたよ!」

「そうなんですか?! 面白いですよね。ふふ、面白いですよね。私、電子コミック好きなんです」

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