刺身こんにゃく

 現実を受け止めなければならないときっていうのがある。高校生になったばかりの16歳女子であっても、過酷な現実と向き合わなければいけない時もある。


 人生というのは、時に残酷で。

 私が何もしていないというのに、無条件で牙をむいてくるんだ。



 ――ピピー。



 体重計が、計測終了の音を鳴らす。

 電子の体重計は、正確だって言われているんだ。

 そう、正確だからこそ、残酷だ。


 嘘をつかない、純粋な子供が一番残酷だっていうこともあるし。



 現実を受け入れたくないから、目をつぶって乗った体重計。

 直視する勇気は無いから、薄目を開けて数字を見てみる。

 そして、すぐに目を閉じる。


 ふぅ……。50キロ台だったことは見えたわ……。

 さすがに大台の60キロは越えていないみたい。

 そこは、良かった……。


 けど、その下の一の位だよね。

 いつもだと、51,52キロの間を行ったり来たり。


 最近夏休みになって動かなくなったから、ちょっと太っちゃってると思うんだよね。

 ギリギリ、53キロ代であれば、セーフなんだけれども。

 54キロになってたら、ショックだぞ……。


 再度、薄目を開けてみる。

 見えてきた数字は、『5』しかない。


 ……ん?


 50キロ台なのは分かっているんだけれども……。

 うーんと、その下の一の位は……。

 まさかとは思うけれども……。


 見えずらかったので、薄目からもう少し目を広げてみると、目に飛び込んで来たのは、やっぱり数字の『5』。


 体重計が表示していた値は、55.5キロであった。



「うわーーーーーーーっ!! 太ったーーーーーーっ!!」



 私の叫び声にびっくりしたのか、お姉ちゃんが脱衣所へと飛んできた。


「どうしたの!? なにかあったのっ!?」

「うわーーーん。おねえちゃーーん。私、太っちゃったーーー!!」


 心配そうな顔を浮かべていたお姉ちゃんは、すっと安堵する顔に変わっていった。


「なんだ、体重の話か。びっくりさせないでよ」

「私にとっては、重大な問題なのーー! 私史上、最高体重なんだよ、やだやだーーー!」


「そうはいっても、自堕落な生活してるからでしょ? 食べては寝て、寝ては食べて……」

「お姉ちゃん、正論パンチしないでよ。それは自分でもわかってるんだよ。けどさ……」


 体重計に目を落とすしかなかった。

 じっと見つめてたら、奇跡が起きて数字変わらないかな?

 片足上げたら、軽くなったりしないかな……?


 お姉ちゃんは私の行動を見ながら、笑っているようだった。


「そんなに落ち込むんだったら、お姉ちゃんが秘策を教えてあげようか?」

「えっ!!そんなのがあるのっ!? ぜひ教えて、ぜひぜひ!!」


 お姉ちゃんは、いたずらな顔を浮かべていた。


「教えてもいいけど、家事のお手伝いしてくれるって言うなら、教えてあげるわよー?」

「します、します! なんでもさせて頂きます!!」


 私が答えると、お姉ちゃんは、秘策を教えてくれた。


「お姉ちゃんが成功したダイエットを教えてあげるね。やっぱり食事制限が一番なのよ。そしてそれを成功させるためにカロリーも少なくて、美味しいものがあるの」

「なんでしょうか! お姉様!」


「『刺身こんにゃく』って言うんだ。甘くてとっても美味しいよ。私大好きなんだ」

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