ハッピーサマーバレンタイン

「夏休みだけバイトをしてみるっていうのも、それも社会勉強のうちだね」


 お父さんは、そう言ってくれた。

 バイトをしてみたいってお父さんに相談してみたの。


 いろんな理由を並べてね。

 社会勉強にもなるし、学生の間にやってみるっていうのも良いかもしれないって思うとか。

 そうしたら、お父さんが許してくれたんだ。



 しっかり許可をもらったうえで、近所のドラッグストアでバイトをし始めたんだ。



 駅から遠い住宅地の中にあるようなドラッグストア。

 主要道路からも離れたところにあるから、本当に近場の家の人しか来ないの。

 ドラッグストアから、ちょっと離れたところには、大きいスーパーもあるっていうこともあって、本当に来店する人が少ない。

 初めてのバイトにはちょうどいいようなお店。


 近所にそんなところがあるなんて、良い所に住んでいたなって思うよ。今日もバイトにいそしんじゃおう!

 ちゃんと、給料に見合った分を働かないとだもんね。


 ドラッグストアのバイトは、基本はレジをするだけ。

 だれども、空いている時間は品出しをしたりして、意外とちょこちょこ動くことが多かった。


 ちょっと忙しい時間帯もあるけれども、バイトの先輩も丁寧に教えてくれるし、とっても良い職場なんだ。



 一時間に一回休憩も取らせてくれるし。

 お店の中はすっごく涼しいし。天国です。


 休憩するときは、休憩スペースに行くの。

 店員さんしか入れないスペースがあって、そこはお客さんから見えないから休憩スペースになっている。


 お店は、数人体制で働いているから、たまに休憩時間もかぶったりして、そこで談笑するのも楽しかったりするんだ。


 今日は、休憩スペースに先輩がいた。

 女の先輩。髪を金髪に染めてて、ショートヘアから見える耳にはピアスの穴が開いているんだ。

 ちょっと怖くて、話しかけたことないけども。



「おつかれー」

「……あ、はい。お疲れ様です」


 あっちから話しかけてくるなんて、意外と、フレンドリーなのかな?


「これ良かったら、食べて」

「……え、えっと、これって何ですか?」


「はっ? 見たらわかるだろ、手作りチョコだよ」

「……な、なるほど」


 チョコと言われたけれども、正確には『チョコレートだったもの』だよね。溶けちゃって、原形を保っていないよ……。


「チョコレートって、溶けても味は変わらないからさ。逆に、すぐに味わえるから美味しいよ!」

「そ、そうなんですね」


 先輩から差し出されると、圧力がすごい。

 この雰囲気は、食べないと怒られちゃいそう……。


「あーしさ、ディストピア飯って言うのが好きなんだよね。それと同じだよ」


 家からここまで持ってくる時に溶けて、お店の中の冷房で再度固まったのか、形状は溶けてるみたいだけど、しっかり固まっているようだった。

 手作りの物とかよりも、お店にあるものを買ってくれた方が、嬉しいかもなのにな……。


「あーしが、チョコレートあげるなんて、滅多にないんだからね。ハッピーサマーバレンタイン。8月の14日に好きな子にチョコをあげるって言う行事。あーしの好きなんだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る