野球

「野球って難しいよ」

「大丈夫、大丈夫。ポールが飛んで来たら手を出すだけで取れるからさ」


「そんなわけないじゃん!」

「それが意外と取れるんだって」


 私と雄一が言い合っていたけど、周りからは痴話喧嘩みたいな目を向けられていることは知っている。


「まぁまぁ。有希が折れなよ。外野になんて、滅多にポール飛んで来ないんだからさ」


 ニヤニヤした顔で言ってくるから、そっちの方にイラっとした気分にもなったけれども。私たちは野球を始めた。



 夏休みに、男女の友達グループで野球をすることになったの。

 誰も野球部はいない、ただの遊びグループなんだ。夏の甲子園が始まったから、男子たちもやりたくなったらしくて。暑い中で麦わら帽子をかぶって野球ですよ。はあ。


 あまり乗り気じゃなかったけれども、雄一含め周りの友達たちの説得で私は外野になったの。


 あまりポールが飛んで来ないなら、まぁいいかって思うけれども。もうちよっと日が当たらない端っこ寄りが良かったな。なんでよりによって、何の日陰も無いセンターなのよ。まったく……。

 この勝負に勝ったら、雄一にジュースおごってもらおうっと。それくらいの権利はあると思うんだ、この暑さって。


 外野は、確かに言われた通り暇であった。

 何もポールが飛んでこないし。ポールがバットに当たったとしても、内野で全部処理されていく。

 私はっていうと、この炎天下の中で、日陰にも入らないで日を浴び続けるっていう謎スポーツをする羽目になっているんです。


 まぁいいか。のんびりと日向ぼっこしていると考えれば……。



 ――カキーン


 のんびりと日向ぼっこモードに切り替えていると、バッターポックスから快音が響いてきた。こんなに良い音がしたってことは……。まさかポールが飛んでくる?


 あまり良くない目を凝らしてみるけれども、ポールの行方が分からなかった。レフトの方向から、雄一の声が飛んできた。


「上だよ、上。フライトんでくるから気をつけろー!」



 その声の通り、上を見るとボールが高く上がってるのが見えた。戻って、もしかして、私のところまで飛んで来るんじゃない?

 あぁ……、まずい。確実に私の頭上に降ってくるコースしている。


 これって、危ないから避けたらいいのかな?

 それはダメか……。


 雄一に教わった通り、手を出すだけ。多分それで取れるはず……。

 なんだかんだ、雄一の言うことで外れたことないもん……。


 信じてるよ、雄一……。


 ボールが降ってくるだろうコースにグロープを差し出す。更新好きで見ているから、フォームだけは自信があったけど。本当にこれで取れるのかな?

 やだ……、怖いから目をつぶっちゃうよ……。



 ――バスッ。



 私のグローブの中で、良い音が鳴った。



「ナイスキャッチ!」


 私のカバーに走ってきていた雄一が、声をかけてくれた。グロープの中を見て見ると、そこに白いポールが入っていた。


「なっ? 俺の言った通りだろ? 手を出しておけば、しっかり取れるからな! ナイスキャッチ!」


 なんだか、雄一の笑顔が眩しく見えた。


 ボールキャッチできると楽しいかもな。

 野球って、ちょっと楽しいかも。……好きになったかもな。

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