はちみつ

 夏休みだからって、部活が休みになることは無い。

 それが、たとえ『軽音楽部』だとしても休みになることは無い。


 軽音楽部って楽に見られがちだけれども、意外と大変なんだよ。

 ギターとかって弾いたことある?

 これが、なかなか難しいんだよね。

 他にも、ベースだって、キーボードだって難しいの。



 吹奏楽部の方が格上に見られることがあるけれども、そもそも簡単な楽器なんてない。

 部員の数は少なくても、夏休みでも毎日練習しているし。

 近くの公民館で発表会が予定されている。


 吹奏楽部と、そんなに変わらないんだよ。

 人前で演奏するからには、中途半端なことはできないし。

 それなりのプレッシャーだって背負っているんだ。



 私はギター担当。

 軽音部の花形だと思うんだけれども、その分練習が大変なんだ。

 女の子用のギターなんていうものがあってもいいと思うのだけれども、そんなものは存在しない。


 手の大きさとかを考慮して欲しい所だよね。

 笛だと、小さい笛から大きい笛まであったり。

 弦楽器もそれ相応の大きさの種類がある。

 けど、ギタ一に関しては、それが無いんだよね。


 ギターを弾く人は、みんな同じ大きさの弦を使っているんだ。

 コードを引こうとする時に抑えるのにも力を使うしね。結構大変なの。


 それでも、自分が思ったように弾けるようになるととっても楽しいから、私の頭の中はいつもギターでいっぱい。


 今日も頑張って練習しようって思って、早めに部室に来て練習を始めた。

 私にかかっているって言っても過言じゃないからね。



 しばらく練習していると、ボーカルの明日香が部室に入ってきた。

 何だかいつもと違うマスクをしている。

 大きめのマスク。


「千鶴、ごめん。私風邪ひいちゃったみたいなの……」

「えーーー! それじゃあ歌はどうするの」


 そうか。

 ギターばっかりに目が行ってしまったけれども、ボーカルって大事じゃん。

 ボーカルがいないと成り立たない。



 途方に暮れていると、次に来たのはベース担当の華子。

 ボーカルの明日香と同じマスクをしている。


「ごめん、みんな。私風邪引いちゃって……」「えーーー、華子も!?」


 これは一大事。

 次に現れた、キーボードの早紀も同じく大きなマスクをしていた。


 私以外、みんな風邪をひいてしまったらしい。





「今日は、練習は控えておこうか」

「うん」


 しょうがないけれども。

 みんな早く治って欲しいな。

 そんな時に、ボーカルの明日香がカバンから何やら小瓶を取り出した。


「この瓶にね、はちみつが入ってるんだ。ボーカルにとって、喉って命だからさ。私、はちみつを持ち歩いててね」



 明日香も、かなり軽音部にはまっていることが分かる。


「風邪ひいた時にも、はちみつが効くっていうんだよね。これ、みんなで食べて元気になろう!」


 明日香は持っていた紙コップに、はちみつを注いでくれる。


 風邪でつらそうなのに、笑ってみんなに渡していった。


「最高の演奏を見せたからさ。みんな、私の好きなはちみつで元気になってね!」

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