アマチュア無線

 高校に、アマチュア無線部っていうのがあるのは知っていた。

 けど、存在を知っているだけで、活動内容とかは全然知らない。

 なんでかって、この高校で言われていることがあるの。


『鉄道研究部」と『漫画研究部』と『アマチュア無線部』。

 その三つには何があっても近づくなって言われているの。


 近づくと、部室に取り込まれるぞって言われている。

 何だか怖い、学校の七不思議みたいな感じで伝わっている。



 文科系の部活に所属する人なら、そういう言い伝えができるっていうのは、わかる気がする。

 その三つの部室は異様な雰囲気を醸し出しているんだよね。

 部室の前に立つと、日本語なのかよくわからない言葉が飛び交っていたりするから。

 私が在学中は絶対に近づかないようにしていようって思ったんだけどね。

 どうしても、そこへ行かなければならない用事ができてしまいまして。


 吹奏楽部の定期演奏会で、体育館を使って演奏をするこのになったの。

 こういう時は、普通だったら『放送部』に掛け合って準備を進めるんだけれども。

 音響資材とかに詳しいのが放送部だから、その部分はお願いしているんだ。


 それで、今回は、夏休みっていうこともあって特別に、『ネット放送』も行おうっていう話になったの。

 それに対しては、みんな賛成をして。

 私も当然ながら賛成をした。


 みんなに見てもらいたいけれども、こんな暑い夏休みに、わざわざ学校まで来てもらうっていうのも申し訳ないと思うから。

 そこまでは、納得だったのだけれども。

 ネット放送をしようとした場合の有識者が、なんとアマチュア無線部だったというわけ。


 そして、吹奏楽部の副部長である私が直々に交渉来ているというわけ。

 何なんだろう、アマチュア無線部って。

 そう思いながらも、部室のドアをノックする。


「はーい。今行きますー」


 部室の中からは、可愛らしい女の子の声が聞こえた。

 私が想像していたのは、声をあまり発さないような男の子がいるものとばかり思っていたけれども。

 部室のドアが開くと、目の前には小さくて可愛らしい女の子がいた。

 上履きの色からして、多分一年生で、私よりも一つ下。


「なにか御用ですか?」

「……え、えっと。あの、今度吹奏楽部で、ネット放送というものをしたく、そのお手伝いを依頼しに」


「えー! そんなカッコイイことするんですか! すごいです」


 目の前の可愛らし子は、自分の身体の前で小さく手をパチパチと叩いた。


「そうだとしたら、私たちは適任かもですね。部長一、吹奏楽部がネット放送したいんだってー」


 よくよく部室内を見ると、アマチュア無線部の部室の中は、ちょっとしたスタジオみたいに、照明があったりホワイトの背景があったりする。

 有識者ってことは、ネットへ向けて配信っていうのをしているのかもしれない。


「ふふ。あの設備は、ちょっとした副産物ですよ。私たちが好きなのは、もちろんアマチュア無線です」

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